シャッターチャンス

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 残念そうにうつむく青年を可哀想に思えてきた中年の男は、意を決した顔で、 「では、これはどうかね?」  と、左手で海の中をかき混ぜた。それ、と頭の上まで持ち上げたその手には、大きな魚の尻尾が握られていた。海上に現れたのは尻尾から胴体の半ばほどで、海水を帯びた鈍色の体が夕日に照らされてキラキラと輝いていた。 「わあ、凄い。魚の種類はわかりませんがとても大きな魚のようですね。でも残念ながら私は、魚愛好家ではないのです。もしそれが、胸に貝殻でもつけた美しい女の人魚なら話は別ですがね」 「ははは、残念ながら……」  中年の男は右手で薄くなった頭を掻きながら、尻尾を持った左手をゆっくりと海へ戻した。  青年は立ち上がってから言った。 「あなたと話したらなんだかすっきりしました。幻ばかりを追っているのもちょうど疲れてきた所です。これからは綺麗な風景でも撮ることにします。ありがとうございました」  青年は軽く頭を下げてから、そそくさとその場を去っていった。小さくなっていく青年の背中を中年の男は見送りながら、 「なんだ、欲のない人間だ」  と、残念そうに呟くと、ため息を一つついてから続けた。 「女の人魚や、上半身まで鱗に覆われた気持ちの悪い半漁人なんかよりも、何倍も珍しいのにな」  そして、採った貝を胸に抱えて、自慢の尾びれを使って優雅に体を翻すと、どこか寂しそうに海の向こうへと帰っていった。 ◆◆◆ 完結 ◆◆◆
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