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プロローグ
小さい照明の淡い光だけが周りを照らす薄暗い部屋。その部屋で二人の男女が書類を手に何かの話していた。
男はスインヘッドにサングラスが特徴的な厳つい印象を持つ黒スーツを着込んでいた。大して女はまだ少女と呼べる程度の年齢で色素の薄い水色の髪と丈が膝上辺りまでのフードマントを着ていた。
「葵、どうやら新しい合獣人間が現れたみたいだ。報告書によると狼の合獣人間。お前とは相性が悪いが行ってくれるか?」
「………ボスが行けと言うなら行くよ。ですけどこいつはどうするの、生け捕り?それとも抹殺?」
「生け捕りだ。発現したのは昨日にも関わらず拘束を行おうとした一等管理官を倒してる。
こいつの才能はこっちで使うべきだ」
わかった、葵がそう答えようとしたその時、薄暗い部屋の壁が突き破られた。中々の異常事態にも関わらず葵はゆっくりと顔をその方向に向け、ボスはため息を付きながら頭を抱えホコリ煙の方向に声をかける。
「…………インターホンを鳴らしてくれませんかね?最低限のマナーでしょう?」
「お前たちのようなヤクザ者にそんな配慮は必要ない。それにあのゴミ溜まりにいるならまだしも、一般市民がいる街で事務所を構えた貴様らに正当性などかけらもないわ」
そう厳しく答えたのは一人の男だったが、明らかにおかしい。下半身と腕部は筋骨隆々な人間の男性のものであったが、胴体部と頭部は筋肉が盛り上がった黒毛の牛人であったからだ。牛人は威嚇するように腰を沈め右肩を前に突き出し、タックルの姿勢を作る。
「…………葵。ここは俺がやる、お前はターゲットのもとに行け」
「うん、わかった」
「!!行かせるか!!」
葵が壁が崩れたことによりできた穴に向かって走り出したのを見て、牛人は気を取られタックルの標的を変えようとしたその時、ボスは腰を左下の方に前屈する。そして勢いよく号令とともに腰を振り上げるた、次の瞬間。
「首頭速刀術、【鬼憐れみ】!!」
ブゥぅぅぅぅぅぅん!!!
「!!!ぐっがァァァァっぁ?!」
すさまじい一本の斬撃波が前方に撃ち放たれ、それに直撃した牛人は大きくふっとばされこの部屋、いやこの部屋が入っていた建物、ビルの3階から外へと飛ばされ大型の装甲車にぶつかる。
建物の外で待機していたと思われる武装した集団は飛んできた自分達の上司の姿を見て、動揺を隠せなかった。
「な…………水島さんがやられた?!ど、どうするんだ?!」
「ほ、本部に応援を…………!!」
「…………呼ぶ必要は……ない」
武装集団のうちの一人が通信機をつけようとした時、装甲車の方から声が聞こえてくる。装甲車にめり込んでいた牛人、水島は自分の力でめり込みから脱出し口元後を拭う。彼は体が頑丈な水牛の合獣人間であるが、流石に凄まじい勢いで3階から突き落とされた流石に小さくない。
隊員たちはそんな彼を止めようとするが水島はそれを無視しゆっくりと歩き、自分が飛んできた穴の方、正確にはその奥にいるであろう敵の方を見る。
「…………良くもやってくれたな芒庭ぁ!!降りてこい、その首へし折ってやる!!」
「やれやれ、困ったもんだ。同じ偶蹄目の合獣人間同士仲良くできないもんかねぇ」
水島の叫びに呆れるような声を上げつつボス、芒庭が壁に空いた穴から出てくる。しかしその姿は明らかに先ほどと違った。
鍛えられた筋肉がついた手足の長さが伸びており黒スーツの袖や裾からはみ出していた。それだけでも十分異常で言ったが、首より上はもっと劇的に変化していた。皮膚が黄色と黒の斑模様に変化し、首の長さが成人男性3人分程度の長さにまで伸び頭部も偶蹄目の獣特有の顔になりサングラス程度しか芒庭の面影を残していなかった。
そう、一言で言うならば首から上が麒麟そのものになっていたのだ。
「どうだい?お互いに損や痛い目を受けたんだ、このあたりで手打ちにしないか?こっちも下手な犠牲は出したくないからねぇ」
「断る、貴様のような悪党を野放しにできるか!!」
「そうか、じゃあ仕方がない。
クソガキ、一辺死んどくか?」
サングラス越しに水島へと冷酷な視線を向けると、芒庭は穴から勢いよく飛び降りる。更にそれと同時に腰を反らせ長い首も大きくしならせる、まるで弓を引き絞るように。
芒庭の攻撃を迎撃するように水島も地面に日々が入るほどの強い踏み込みを行い鋭い角を芒庭の方へと向け、全力で飛び上がる。
そして二人の攻撃は麒麟と水牛。本来その二体には縁がない空中にてその一撃は激突する。
「首頭速刀術、【騎神の大輪】!!」
「牛飛撃!!」
引き絞らえた長首の斬撃と猛牛の頭突きがぶつかった瞬間、あたりに一面に衝撃波が生まれ、人は吹き飛びガラスは割れ地面建物ははヒビ割れていく。
西暦20☓☓年、ある日突然人類の中の500人に一人の割合で、人間以外の動物の力を宿した変異種、合獣人間が生まれた。殆どの合獣人間は人間を遥かに凌ぐ身体能力と元になった生物の生態を模した特殊能力を得ていた。更に得た動物の本能に動かされ暴徒とかす者たちも少なくはなかった。
そんな者たちを抑えるために組織されたのは合獣人間総合管理局。合獣人間に管理番号を付け管理し、また犯罪合獣人間を倒して人々の生活を守る活動を行っている。
一般人からすれば心強いことこの上ない。しかし、合獣人間たちからすればありがた迷惑この上ない。彼らの言う管理とはかつての悪法、優生保護法と同じで合獣人間達を隔離することなのであるのだから。しかも対象は犯罪者も一般人も関係ないときたら、当然反発する者も現れる。
その者達は動物が群れなすように徒党を組み気がつけば村を町を都市を自分達の領域、悪道の中央街へと変えていき、そこを拠点に管理体制の政府に真っ向から反抗していった
その後何回かの内戦や紛争を経て両者は均衡状態になり、現在は表面上の平和を取り戻した。しかしそれでも争いの火は決して消えることはなく今なおくすぶり続けている。
これは、半端な混ざり者たちの戦いと抗いの物語の一つ
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