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「河塚エルだ。よろしく」
河塚エルの自己紹介が終わり、教室の左側はひと段落となった。
「ここまでが天組だな」教壇の男が口を開く。「勘の良い奴は察していると思うが、ここまでが全国の成績トップ10だ。席順がそのまま成績順になっている。1位と10位は欠席だがな」
男の言葉に、河塚エルは胸が騒ぐのを感じた。自分より成績が上の者が8人もいる。それも、その者たちとこれから同じ環境に身を置くことになる。
これまでの人生で、自分より優れていると感じる人間など誰一人としていなかった。上級生も学校の先生も両親も、自分より遥か下に居る存在に思えて仕方がなかった。
だがここにはいる。事実として自分よりも学力が高い、同い年の者たちが。
退屈も少しは紛れるかもしれないと、河塚エルは期待を抱いた。
「続けて馬組に移るぞ」教壇の男が教室右側に目線を送る。彼から見ると左だ。「馬組は言わずもがな全国の成績ワースト10。下から10番目が一番前だ。つまり、この教室の中間には、天才でも馬鹿でもない無数の学生がいるわけだ」
言葉に一区切りつけ、教壇の男が目で合図を送る。
右側先頭の男。つまりは成績が下から10番目の者は、机に突っ伏して眠りこけていた。
教壇の男はため息をつき、顎をしゃくった。
9番目の席に人はいない。8番目の者が慌てた様子で反応した。
「東ノ都 民子です」
小さい体に大きなリュック。その者は、『じゃんじゃんけん』で河塚エルと対決した女性であった。
大きなリュックを背負ったまま器用に座っていた彼女だが、立ち上がった拍子に背負うリュックの自重に体を引っ張られ、ド派手に転んだ。
「……いたた。はっ、すみません!」
一つ後ろの席に向かって土下座する。7番目の席に座る女性は、一切動じた素振りを見せずに静かに頷いた。
「改めまして、東ノ都 民子です。よかったら『とみん』と呼んでください。よろしくお願いします」改めてとみんが頭を下げる。
やはり妙な不自然さがあると、河塚エルは思った。
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