三茄子

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 小休憩を挟み、藤山 城がベランダから教室に戻ってきた。険しかった表情が、心なしか先ほどよりもすっきりして見える。  藤山 城はそのままチョークを二本の指で挟み、コンコンと端に二度ほど打ち付けると、黒板の中央にザッと縦線を引いた。 「それじゃあ天馬学園の説明でもするか。入学前にも聞いたと思うが忘れている奴も多いだろうからな」 くるりと振り返り、教室の右側にちらりと視線を寄越す。馬組の面子は真っ直ぐな眼差しを彼に向けていた。 「天馬学園のカリキュラムは午前と午後に大きく分けられる。午前が一般的な授業であるのに対し、午後は部活動に近いイメージだ」  藤山 城は黒板の左と右にその旨を記した。雑ではあるがなかなか達筆だ。  続く彼の言葉によると、午前は天組も馬組も合同で授業を行うようだ。しかし生徒に出席を強いるものではなく、希望者だけが受講できるようになっているらしい。途中参加も途中退席も自由だ。その背景には、授業のレベルが講師によって様々だという事情があった。天組と馬組どちらにものさしを合わせるべきか、講師によって意見が分かれるところだろう。  午後は授業というよりも世間一般でいうところの部活動のイメージだ。内容はスポーツから研究まで多岐に渡る。生徒数が限られているため纏った人数を必要とする活動は難しいのが現状だが、少人数での活動に対してもそれなりの援助が見込めるなどの特徴がある。複数の活動に参加することも可能だ。若者が自分が望む才能を育てる場としてはなかなか好条件であるといえるだろう。これも天馬学園の大きな特徴である広大な敷地と、学園長である金剛の財力による賜物といえる。 「学園長の方針で、午前と午後のどちらの活動も生徒の自主性が尊重される。一切参加しなくてもお咎めなしだ。進級や進路に影響もない」ただし、と付け加えて藤山 城は続けた。「それでは全体のモチベーションが低下する恐れがある。その対策として設けられているのが『成績ポイント制』だ」  黒板の左側。午前の活動について記していた場所に、彼は『成績ポイント』と大きく書いた。 「このポイントは学期末に行われる試験の順位に応じて割り振られる。試験の出題範囲は午前授業の内容が主だ。さてその使用用途だが、みんな机の中を見てくれ」  藤山 城の言葉に多くの生徒が反応した。机の中にあったのは飲食店のメニュー表のようなモノだった。薄い冊子を開くと、『漫画1冊 5ポイント』といったような文言がずらりと並んでいる。 「そこに書かれている褒美と交換ができるわけだ。ポイントは試験を跨いで貯蓄することもできる。運用は自由だ。特殊なモノが欲しい奴は個人申請もできる。午後の活動が実を結んだ際にも支給されるから、勉強がからっきしの奴はそっちを頑張るんだな」  藤山 城は口早に説明すると、ふーっと長い息を吐いた。 「疲れたな。一人喋りはこの辺にしておこう。限界が近い奴も多いだろうからな」  教室の主に右側。船を漕ぎ始めていた輩達がハッとしたように動きを止めた。それに合わせて、船が突然止まったことに気づいた乗客のように、これまで眠ったままだった馬組先頭の男が目を覚ました。  その様子を一瞥し、藤山 城は唇を舐めた。 「坊ちゃんも目覚めたことだし、外に出るか。百聞は一見にって奴だ」
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