天は人

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天は人

 天馬学園での新生活は足早に過ぎていった。  午前と午後、二つに分かれた活動の参加状況は新入生それぞれだった。午前の授業に関していえば、出席率は毎回7割程度であった。  初日に姿を見せなかった四人は相変わらず欠席のままだ。授業には参加せずとも寮には入っているという噂を河塚エルはうっすらと耳にしていたが、真偽の程は分からない。  午後の活動に関しては、既に何かしらのグループに所属を決めた者も数人いるようだったが、まだ悩んでいるという者がほとんどだった。見学しようと足を運んでいる者もいたようだが、河塚エルはひとり寮で勉強に明け暮れた。  勉強の原動力となったのは、自分より”上”の存在だ。これまで大した労力を使わずとも一番になっていた「勉強」という分野で、自分がどこまでいけるのか知りたい。藤山 城がいうところの”ものさし”で限界を測ってみたい。そんな気概が彼の心中を支配していた。  ルームメイトとなった綾野 和鷹は相変わらず帰りが遅かった。午前の授業には顔を見せていたが、午後に何をしているのかはよく知らない。寮の部屋に戻ってくるのはいつも夕刻だった。  そして迎えた七月某日。  いつもの通り新入生が集まったA棟の一年教室には、僅かに緊張の空気が流れていた。 「全員、用紙は行き届いたか?」教壇から藤山 城がいう。  本日行われるは期末試験。生徒にとって、そして河塚エルにとって勝負の日だ。  出席率は初日と同じであった。皆、程度は違えど『成績ポイント』に関心を持っているのだろう。初日から一度も出席していない四人は今日も欠席のようだ。 「では、始め」  藤山 城の合図で試験が始まる。用紙を表にする乾いた音が重なった。  試験開始から二十分程が経過した。  ペンを走らせる音に数人の寝息が重なり始めた頃、教室の入口が粗雑に開かれた。 「あー、すんません。今から一人いけます?」  顔を見せたのは切れ目で短髪の男だった。閉店間際の居酒屋にきた客のような口振りで、教壇に向かって声をかける。  藤山 城は彼の顔を一瞥し、教室に入るようハンドサインを送った。  試験用紙に目線を落としたまま聞いていた河塚エルがちらっと顔を上げる。  切れ目の男は手刀を切りながら歩き、最左列の最前席に座った。  コイツが全国一位の男か。男の登場に河塚エルは一瞬思考を奪われたが、すぐに試験モードに切り替えた。  三日に及んだ試験が無事に終わった。  河塚エルはそこそこの手応えを感じていた。どれだけ順位を上げることができたか、結果を楽しみに数日間を過ごした。  そして迎えた返却日。 「名前を呼ばれた奴は前に来い」藤山 城が順に名前を読み上げていく。  最初に呼ばれたのは、試験の初日に遅れてやってきた切れ目の男だった。試験以来、彼は毎度遅刻気味ではあるが授業に出席していた。  天宮 聡一郎。藤山 城は彼のことをこう呼んだ。  返却の際、藤山 城は回答用紙と共に、なにやら端末を手渡していた。この端末については事前に説明があった。こちらは『成績ポイント制』を実現するための端末で、ポイントの閲覧や褒美の申請ができるらしい。特定の人物とメッセージの交換などもできるようだ。 「次、河塚エル」  名前を呼ばれ、藤山 城から回答用紙と端末を受け取る。  そのまま席に戻り、まずは端末を起動。今回の試験での自分の順位については端末から参照ができると、藤山 城がいっていたからだ。  端末の操作は初めてでも迷わない親切なものだった。ほどなくして自分の順位が表示される。 「……」  その数字を見て、河塚エルは固まった。  そこに表示された数字は「9」。入学時と全く同じ順位であった。
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