大海を知る

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大海を知る

 河塚家に朝がくる。  リビングでは、河塚エルが執拗に納豆を混ぜている。粘りっ気のある白い糸が、茶色の粒をすっかり覆い隠していた。 「エル君。なにか届いてたわよ」  毎朝の日課である庭の花壇の手入れから戻ってきたらしい母親が、河塚エルの手元に何やら寄越す。  それと同時に納豆を混ぜていた割り箸が折れた。中学の制服に一粒の納豆が飛ぶ。  河塚エルは冷めた目で納豆を睨み、短くなった割り箸の反対側で器用に摘み上げ、そのまま口に放ると、白い糸が綺麗なアーチを描いた。  ちらりと視線を机上に向ける。そこには真っ黒の封筒があった。つい先ほど母親が運んできた代物だ。  黒い封筒の表面には、白い文字で『ウェルカム to 天馬学園』と書かれていた。
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