天は人

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 夏季休暇を直前に控えたある日。 「あー、すまん。一年から生徒会執行部を2人選出せんといかんのだが、すっかり忘れてた」朝のホームルーム時に、藤山 城がこんなことを言い出した。 「立候補する奴はいるか?」と呼びかけると、一人の生徒がまっすぐに手を挙げた。 「お、綾野。やってくれるか」  立候補したのは綾野 和鷹だった。  河塚エルはそれが意外だった。いまいち本心を掴みきれないルームメイトが、生徒の学園生活をより良いものにしようという見上げた思想を持ち合わせているとは思っていなかった。  いや、それとも別の理由があるのだろうか。立体的な視点を持て、藤山 城の言葉がふと思い出された。  まさかとは思うが、学園案内で出会した生徒会執行部2年生の二人に惹かれたということはないだろうか。可能性は0ではないが、この男が色恋にうつつを抜かす姿は想像ができなかった。 「もう一人はどうだ」  藤山 城の呼びかけに、あの男が反応を示した。 「ほーい」  全国一位の男、天宮 聡一郎だ。  切れ目の奥に宿る企みは如何なるものか。河塚エルには見当もつかなかった。 「よし。綾野と天宮で決まりだな」手元の用紙にペンを走らせながら藤山 城がいう。 「ちょっとまった」河塚エルの声がペンの動きを止めた。 「なんだ? 河塚も立候補か?」顔を上げた藤山 城が問いかける。  河塚エルはコクリと頷いた。  彼が手を挙げたのは、先に立候補した二人がいま最も関心を寄せる者達だったからだ。そうすることでどう転ぶかは不明だが、ここで黙って見ていると後悔するような気がした。 「そうか。それなら2人に絞る方法を考える必要があるな」  追って案内すると締め括り、その日の授業が始まった。  河塚エルは心臓の鼓動が速まるのを感じた。
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