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車が止まると同時に目を開いた。
「着きました」運転手の男が短く告げる。
後部座席のドアが自動で開く。外の世界はやけに眩しく感じられた。
天馬学園の敷地は、一見しただけでは把握しきれなかった。それだけ広大ということだろう。
学園の周りは森で囲まれているようだ。航空写真で見れば嫌でも目立ちそうなものだが、秘匿するために強大な力でも働いているのだろうか。
校門をくぐってすぐの場所には時計台があった。時刻は昼前を指している。河塚家に迎えが来たのが早朝であったため、ここまでの移動時間は六時間弱か。河塚エルはもう一度脳内地図を検索しようかと考えたが、場所を知ったところであまり意味はないと考え直した。
天馬学園には「入学式会場はこちら」と書かれた案内が至るところに設置されていた。馬鹿でも分かるようにと念入りに準備しているようだった。
河塚エルは素直に案内に従った。荷物は事前に郵送しているため、今の彼は手ぶらの状態だ。格好は予め自宅に届いた天馬学園の制服である。胸の辺りには、モチーフはペガサスと思われる校章の刺繍があった。
程なくして入学式の会場らしい体育館に到着した。入場してすぐの場所に電子黒板があり、座席が表示されている。
椅子は全部で二十脚あった。横一列に十脚。それが前後に二列、等間隔で並んでいる。席は既に半分ほど埋まっているようだ。皆、河塚エルと同じ制服を着ている。
座席表で自分の名前を確認していると、隣に別の男がやって来た。彼も座席表を確認している。どうやら同じ新入生らしい。レンズの厚いメガネをかけている。鷹のように鋭い目は、全てを見透かしているようだ。頭の回転が速そうな男だと、河塚エルはそう思った。
自分の名前があった、前列の右端から2つ目の椅子に腰かける。右隣に人はいない。他にもちらほらと空席が確認できた。
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