大海を知る

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 時計の針が真上で重なると同時に、体育館の照明が落ちた。 「天馬学園へようこそ!」渋い男の声が響き渡る。  同時にスポットライトが注がれる。ステージ中央には貫禄漂う中年の男がいた。白髪をオールバックにして、これまた白い立派な髭を蓄えている。着こなしたスーツは如何にも金が掛かっていそうだ。 「私はこの学園の学園長。金剛だ。今日より我が学園の一員となった新入生の皆にとって、ここでの生活が良き化学反応を生むことを切に祈っておる」短い挨拶を済ませると、ステージの両端からスーツの男がそれぞれ荷台を押して出てきた。荷台には箱が載っている。片方は黒い箱に白字で『天』と、もう片方は白い箱に黒字で『馬』と書かれている。 「既に存じていることと思うが、この学園のモットーは『馬鹿と天才の化学反応』である。馬鹿と天才は紙一重。この通説を私はあらゆる意味で信じている」  金剛は詳しい説明をせぬまま、『天』の箱に手を入れた。中でゴソゴソと手を動かしている雰囲気がある。それから素早く手を抜く。彼の右手には数字が書かれたボールが握られていた。 「天の9」金剛がいうと、スポットライトがもう一所に注がれた。それというのは、新入生の前列9番目。河塚エルの席だった。「選ばれし若人よ。前に」  河塚エルは困惑しながらもステージに向かった。  金剛は彼を『天』の箱の隣に立たせると、続いて『馬』の箱に手を入れた。 「馬の8」後列8番目にスポットライトが注ぐ。しかしそこは空席だった。 「なんだ、欠席か……」  金剛がくじを引きなおそうとした時。 「ごめんなさーい!」女性の声が響いた。
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