大海を知る

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 大声で割り込んできた女性は「馬の8」の該当者だった。小さい体に大きなリュックを背負っている。小さく丸まれば彼女の体を収納できそうだ。  彼女が遅れたのは迷子になっていたかららしい。あれだけの案内が設置されていたというのにどうやったら迷うのだと、河塚エルは不思議に思った。  金剛を挟んで、ステージ上で河塚エルと女性が対峙する。『天』の箱と『馬』の箱はステージから撤去され、代わりに立派な机が運ばれてきた。  それと同時に机上の様子がステージ上に映し出された。片側には河塚エルの名前が表示されている。くじを引いてすぐに挿入したのだろう。やけに手がこんでいるなと河塚エルは感心した。  彼の名前の逆側には「東ノ都 民子」と表示されている。それが彼女の名前らしかった。 「それではこれより、入学生代表二人によるレクリエーションを執り行う」金剛は背広の内ポケットから二つのカードケースを取り出した。「二人に実施してもらうのはカードゲーム。名を『じゃんじゃんけん』だ」 「えー、あたしそういうのはちょっと……」リュックの女性が困ったように声を漏らす。 「そう構えなくて結構。文字通り馬鹿でもできる簡単なゲームだよ」金剛は威厳のある声色でいった。  同時にステージの映像がゲームの説明書きに切り替わる。 「『じゃんじゃんけん』の基本ルールはじゃんけんだ。じゃんけんのルールは――」念のためといった様子で金剛がリュックの女性の方を向く。彼女は少し緊張した顔で頷いた。金剛が安心したように小さく頷く。「それでは『じゃんじゃんけん』の説明に移ろうか」  金剛は背後に映し出された説明書きの内容を話し始めた。
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