大海を知る

8/9
前へ
/96ページ
次へ
 二戦を終え、現在の戦況を整理する。  自分の手札は『グー, チョキ, パー, グー+, パー+』。  相手の手札は『グー, チョキ, パー, チョキ+, パー+』。  さて、次の手はどうするべきか。 「今回はコレです!」  河塚エルが思考を巡らせていると、とみんはさっさとカードをセットした。  彼女の様子にヒントはないかと、思考をスイッチする。  そしてあることに気づく。とみんは、初手と二手目で同じ手を出した。その時の映像を脳内で再生する。記憶の中の彼女は、手札のからカードを出していた。  もしや彼女は手札をシャッフルしていないのではないか。そんな考えが浮かんだ。  記憶を辿る。ゲーム開始から今まで、彼女が手札をシャッフルしている映像は見当たらなかった。  それなら彼女が今セットしたカードは何だ?  自分が手札を配られた時、カードは左から「グー」「チョキ」と綺麗に並んでいた。そして、とみんが『グー+』を出した初手と二手目。記憶の中の彼女は左から四番目のカードを出していた。それは自分の手札にあった『グー+』の位置とも重なる。  そして今回とみんがセットした手も、左から四番目のカードだった。前回『グー+』を失ったということは、そこには『チョキ+』があったことになる。  となれば自分が出すべきは『グー』か。『グー』で『チョキ+』に勝てば、相手の『チョキ+』を奪うこともできる。  万が一、とみんが罠を仕掛けている可能性を考慮しても、『グー』なら致命傷にはならない。[N]のカードであるため、相手にカードを奪われる心配もない。  河塚エルもカードをセットした。 「両者セット完了。オープン」  金剛がめくったカードは、河塚エルが『グー』、とみんは『チョキ+』だった。  これで河塚エルの手札には、再び六種類が揃った。  とみんの方は『グー, チョキ, パー, パー+』の四種類だ。 「――あ! やってしまいましたぁ」  『チョキ+』を奪われ動揺したか、とみんは手札を落としてしまった。慌てて拾い集める。彼女にとっては運の良いことに、河塚エルはこれでとみんがセットする手を読めなくなった。  しかし河塚エルに動揺の色はなかった。これまでのとみんの手から、彼女の選択に戦略の文字はないことを確信していたからだ。  純粋に勝率が最も高い手を出しておけば、まず間違いないだろう。これが河塚エルの考えだった。  二人がほぼ同時にカードをセットする。 「両者セット完了。オープン」  河塚エルのカードは『パー+』、とみんのカードも『パー+』だった。  勝敗は引き分け。お互いの『パー+』は没収となった。
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加