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二日ぶりの日の光りに目眩を覚える。
留置場から出ると目の前はマスコミがハイエナの用な眼光でシャッターを押す。その光景に目眩が加速する。
スターのゴシップは世間を大いに賑わすだろう。
俺は長谷川の仕掛けたハニートラップにまんまとはめられた。あの夜合流した女が俺に性的暴行を受けたとマスコミに垂れ込んだのだ。
あの夜、確かにホテルには行ったがその後の記憶が全く無い。きっと薬か何か盛られて俺が意識を失っている間に偽造写真を撮ったのだろう。だがこの写真が偽物と証明する事は出来ない。この証拠写真が上がっている以上俺に反論する余地はなかった。幸い向こうは慰謝料としてニ千万で示談を持ちかけている。金は貯金を崩せば直ぐに払えるが俺の芸能活動の復帰は難しいだろう。
黒いワゴンに乗り自宅マンションに向かった。車はマンションの裏側に止めマスコミを避けるように裏口から入る。
鉛を詰められたような緩慢な動きで自宅玄関のドアを開けた。むわぁとした重たい空気に思わず噎せそうになる。俺は廊下の電気をつけ廊下を進みカーテンを締めきった薄暗いリビングに入た。その瞬間何故か廊下の電気が消え再び部屋の中が暗闇になる。
ベランダ側のカーテンを開けようと手を伸ばした瞬間ドンと背中に鋭い痛みが走る。
続き様にドン、ドンと背中に衝撃が走り俺はそのまま床に倒れ込んだ。握っていたカーテンは倒れる体に引っ張られパチンパチンとはぜる。太陽光が部屋の中を一気に明るくした。
咳と共に生ぬるい液体が込み上げてくると同時に鉄の味が鼻をつく。
途端に息が詰まる。苦しい。
掠れる意識の中、見上げると目の前に白のワンピースを着た女が立っている。眩い光が逆光となって顔が見えない。
「……おま、えは」
「私の物。私の物。他の女が触るなんて絶対駄目」
良くドラマの撮影で使っているような赤い血糊の付いた包丁を振りかざした。その時逆光で見えなかった顔が露になる。
この女は俺をストーカーしていた女だ。
気づいた時には遅く、女の握る包丁は俺の右目を貫く瞬間を捉える。
薄れゆく意識の中、視界の片隅で捉えたのは衣装がはみ出た黒い鞄だった。
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