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「著名人が密かに通う神社がありましてね。名前がない小さな神社なんですが、何でも願いが叶う幻の神社なんですよ」
一つ小さく息を吐き、俺の指がまた動き出す。
「私その神社で息子がオーディション受かりますようにって祈願したら本当に叶ったんですよ」
「そうなんですね」
その馬鹿馬鹿しい話を聞いて思わず苦笑してしまった。そんなの偶然に決まってる。
「芸能界そんなに甘くないですよ。それにそんなパワースポットいくらでもありますし、そんな事で成功できるなら今頃この世の中成功者だ」
ミラー越しに運転手の表情が少し見える。皺の多い顔に愛想笑いを浮かべ更に皺を増やす。その皺からは人生の苦労を感じられた。
「そうですよね。でももし気になりましたらこれ」
そう言って運転手は俺に名刺を渡してきた。
「この場所は少し複雑な場所にありまして。もし行かれる時はこの番号にお電話下さい。午前二時頃ならいつでも飛んで行きますよ」
俺はそれ以上この運転手戯言を聞きたくなかった。その名刺を雑に受け取りポケットに突っ込むと強烈な睡魔に襲われそのまま瞼を閉じた。
「お客さん!お客さん!着きましたよ」
年配の女性の声に起こされ俺は寝ぼけ眼にクレジットカードで決済し、タクシーを出ると直ぐに走り出した。タクシーの放つ赤いテールランプは眩いネオンの海の中に消えていく。
……あれ?さっき話してた運転手って女だったか?
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