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午前二時に俺はある人物に電話をかけていた。
約束通り直ぐに来た目の前の車に乗り込むと扉が閉まる。
「こんばんは。またのご利用ありがとうございます」
律儀な挨拶に対する返事をせず早急に返す。
「今すぐあの神社へ連れてってくれ」
運転手は苦笑いをしつつ緩い口調で答える。
「勿論連れていきますよ。ただ少し距離があるのでお時間はかかるかもしれませんが」
「それはかまわない」
「……ところでその黒い大きな鞄は?」
「これは……仕事で使った衣装が入っているだけだ」
「左様でしたか。かしこまりました」
そう言うと車は走り出す。
タクシーは、高速に乗るとどんどん都心から離れ郊外へと向かって走っていく。
明るいネオンやビルは景色から消え、高層マンションは次第にアパート、古民家へと変わる様子を見ているとなんだか歴史を辿っているような気持ちになった。
外の景色から建物も街灯も無くなると、車が減速し方向を変えた。どうやら高速を下りたようだ。そこから暫く車を走らせると段々と険しい山道に入っていく。不気味な樹海が広がる様子を見て俺は何故こんな時間を選択してしまったんだと後悔する。こんな樹海なら昼間でもさほど目立たない。それなら運転手に休日に金を弾んで来てもらうべきだったが悠長なことは言ってられない。
左右に蛇行する車に車内は激しく揺らされる。そんな険しい山道を三十分程走ったところで車は停車する。
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