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「え? だって、名字が昔と変わってたから……」
そう伝えると、伊吹さんは「ああ。そういうことか」と納得した顔をしてみせる。
「俺が大学生の時に両親が離婚したんだ。まあ、夫婦としては別れたけど、仲が悪くなった訳ではないから、未だに両親と俺と三人で会ったりするけどな。一応、俺は母さんと暮らすことになったから、母さんの旧姓に名字が変わったって訳」
「じゃあ、結婚はしてないってことですか?」
「してないよ。独身」
そうだったんだ。誤解してたみたいだ。
「ついでに恋人もいないしなぁ」
「……でも、モテるでしょう?」
「あはは! まぁなあ。廣佳は? 彼女とか、いるの?」
「え? あ、いや。僕もいません」
そんな会話をしていた、その時だった。
「社長。そろそろいいですか?」
先程の秘書らしき男性が戻ってきた。
一瞬、僕の方をじろりと睨んできた……ように見えた。
僕のせいで、予定になかった行動を伊吹さんにされて、怒っているのかもしれない。
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