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泣きながら荷物を詰めていたら、晴樹から着信が入った。鈍いくせに、なんてタイミングだ。
「……もしもし」
涙声にならないように、必死で隠して電話に出る。
「ゆき、やっと出てくれた」
「ばか。なんで怪我なんかしてるのよ」
「すまん」
「ばか」
「ごめん」
「ばか」
「もうしない」
「……ばか」
久しぶりに聞く晴樹の重低音の声。誤魔化し切れないほど涙がこぼれて、ゆきは声に出して泣いた。わんわんとかなりの間泣いていたが、晴樹との通話が切れる事はなかった。
涙が枯れて、へんな吃逆が出てきたころに、晴樹が「あのさ」と切り出した。
「俺の中の一番って、ずっと変わらないんだ。永遠に変わらない。俺はその一番をずっとそばに置きたいし、一生離したくない。例えば、1番好きなのがバラの花だとするだろ。となりに別の花があって、綺麗だなとか、ちょっとは思う。でも、その花が別の誰かに取られても、ちっとも悔しくないって、分かったんだ。でも、バラの花は、別の誰かにって、思う事すら出来ない。欲しくて欲しくてたまらなかったバラだから。それが、自分勝手な独占欲だって事は分かってる。だから、その」
きっと何回も考えてたどり着いた言い訳なのだろう。はじめの勢いは良かったけれど、最後はしどろもどろな所が晴樹らしい。言葉に詰まった晴樹が情けない声で「だから、お願い、帰ってきてよ」と言ったので、ゆきはとうとう笑ってしまった。
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