あなたのくれる花

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 何となく怪しいと思い始めたのは、晴樹が携帯電話をあまり弄らなくなったからだ。いつもはゲームアプリに熱中しすぎて、トイレまで持ち込んでいた。なのに、急に携帯をリビングテーブルに伏せて放置するようになった。  雑誌に書いてある浮気の症状とは真逆の行動。だけど、それがおかしいと思った。元来、晴樹はお調子者だ。街を夫婦で歩いていてすれ違いざまに女の子と肩が当たったりしたら、恥ずかしげもなく「ごめんね、可愛い子にぶつかっちゃったよ」なんて言う。イタリアの恋の達人に弟子入りでもしていたのかと思うほど軽い。でも、その軽さは本気ではないからこその軽さだ。真面目に付き合うとなると、途端に義理堅い男になる。義理堅いから、真面目な相手には真面目に対応する。  携帯電話の放置はその現れだとおもった。  相手は、軽々しく適当に対応してはいけない子。  「……要は優しいのよね」   腹立たしい。なのに憎めない。  実家のゆきの部屋には、大きなバラのドライフラワーが何束も吊り下がっている。  毎日一本、欠かさずに送られてきたバラの花。あまりにも続くから、ゆきはドライフラワーにしていつまで贈られてくるか、様子を見ていた。  バラは、ゆきが根負けして「もう贈らなくていい」と言っても続いた。  その後、晴樹はプロポーズに8本の薔薇の花束をくれた。何故8本なのと聞いたら、残りはその前に贈っていると晴樹は言った。  意味が分からず、バラの花言葉を調べると、バラを108本贈るとプロポーズの意味があると分かった。なんて、ロマンチックなんだろうと感動したのを、ゆきは覚えている。
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