あなたのくれる花

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 腹立たしさから出た言葉を、ゆきは次の日に義姉からの電話でもう一度聞く事となった。 「ゆきさんごめんね。お母様のことで大変な時に。昨日晴樹が怪我したのよ。ほんと馬鹿な話なんだけど、包丁持って歩いてて、滑って転んで自分のお腹を刺しちゃったんですって。あ、命に別状はないし、今は病院だから安心して。それで入院に必要な物を睦に言ってマンションから持ってきてもらっちゃったの。事後報告でごめんなさいね」  義姉の言葉は、半分くらいしかゆきの耳には入らなかった。なんと返事をしたのか自分でも分からない内に、通話は終了していた。  気付けばゆきの目から涙が溢れ出ていた。あれほど腹を立てていたのに、晴樹が怪我をしたと聞いたら泣くほど悲しくなると分かった。憎しみよりも、愛情がまだ強い。  大丈夫。お義姉さんも命には別状はないと言っていた。震え出す指先を握りしめ、ゆきはスーツケースに荷物を詰め始めた。  腹が立っても、悔しくても、そばにいなきゃ伝わらない。我慢して黙ってたら、鈍い晴樹は一生気付かない。ちゃんと戻って話し合おう。  腹立たしいけど大好きだ、と。
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