あなたのくれる花

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「ゆきぃ、あんたまだ晴樹さん所に、帰らんでええだかね」    里帰り2週間目で、母親の道枝(みちえ)はゆきに聞いた。仕舞いそびれたこたつに入り、道枝の隣では父親がなにも聞いてない風で足の爪を切っている。しかし、ゆきは父親がしっかりこちらの話を聞いているのを知っていた。なぜなら父親はずっと足の小指しか触っていない。広げた新聞紙の記事を読む小芝居も加えて、ゆきが母親の問いかけに何と答えるか待っている。 「なんも聞かんでしばらく泊めろって言うから黙ってたけんさ、お母さんちも心配なんだよ。ちったあ教えてくれても……」  こういう時の親はずるい。母親の反対側でテレビを見ていたゆきは鼻からため息を吐いた。  普段は口喧嘩ばかりしている癖に、子供の事となったら強い団結力で攻めてくる。長年連れ添った夫婦の阿吽の呼吸で、母親が先陣を切って仕掛けたら、様子を見て父が出る。 「おい、ゆき。お母さんも心配してるだで、だんまり決めんで、何か悩みがあるなら、言え」  ほらやっぱり。2人して眉毛を下げて、口も半開きにして。似た物夫婦もここまで極めたら双子と一緒なんじゃないか。我が親ながら、素晴らしい絆だと思う。    
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