習わしと呪い

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習わしと呪い

今から丁度十七年前、私が生を受けましたは花の一族でありました。はて何のことやらとお思いでしょう。 花の一族、私達の家系には、代々引き継がれてきた習わしが御座います。 子には花の名前を付けよ。 私達は物心つく頃からこの言葉を何度も聞かされます。花の名前を付けること。それは花言葉を授かることと同義であると教え込まれます。 歴史を遡ること数百年、徳川家の統治の時代にありました頃。私の祖先は花の毒を用いた暗殺を生業として密かに暮らしていました。しかし、いつの時代も悪行にバチが当たるのは避けられないようで、祖先は呪いを受けたのでありました。とある日祖先の愛娘が急死してしまうのです。それは娘が二十を迎えためでたい日に御座いました。 一族の二十歳を迎えた者死ぬ。 この呪いは末代まで続くものだそうで、祖先は何とかして呪いを解こうと暗中模索。しかし、その甲斐もなくついには呪縛を解くことは叶いませぬまま死んでしまいます。 事態を重くみた一族は寺の教えを乞いました。曰く、「憎悪に塗れた呪いを解くことは容易くない。せめて軽くするのに専念しなさい」とのこと。 その手段こそが習わし。 産まれた女の子に花の名を授け、血で汚れた花と無念の魂への謝罪をする。このようにして私達は二十を超えてもなお生き続けられるのです。 花の名を受けた子はその花に託された想い、つまり花言葉を受け取り成長するのです。 私の祖母の名は竜胆。竜胆の花言葉は「正義」「誠実」。彼女はその言葉の通り正義感が強く、自分にも他人にも厳しい人でした。 母の名は百合。百合の花言葉は「陽気」「純潔」。母は若くして死んでしまいましたので伝聞ではありますが、とても明るくそれは楽しげな人だったそうです。 最後になりますが私の名は椿。椿の花言葉は「控えめな優しさ」「誇り」。習わしに甘えずとも誇り高く謙虚な姿勢を忘れずに生きたく思います。 此処まで話す分に「何が呪いだ」という声が聞こえてくるように思われます。 確かにそう見えるでしょう。 ただ花言葉には仄暗い一面、裏花言葉なるものが存在することをご存知でしょうか。 私達はこの裏花言葉の影響を受けてしまうのです。これこそが私達一族の呪い。裏花言葉の呪いが作用する条件は「与えられた花言葉を無視して二十歳まで成長すること」。 母も呪いを受けたのです。二十歳になる二年前私を身籠り、十九の時に出産します。これが「純潔」の花言葉に背いたのでしょう。母は二十を迎えた日に死んでしまいました。 百合の裏花言葉は「呪い」です。 こうして花の一族の習わしは私の代まで受け繋がれたのであります。私は日々精進、「控えめな優しさ」と「誇り」持ち過ごしているのです。 最後に一つ私の話を聴いて下さった皆様にお伝えしましょう。 椿の裏花言葉は「罪を犯す女」です。 果たしてこの言葉がどのような意味を持つのか。私は心配で心配で堪りません。暫く、外出は控えることとしましょう。
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