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~序幕:思い出と悲劇~
「宗達行くよー!」
いつも聞こえてくる元気なその声は俺の耳に溶けて馴染む。この頃の俺はまだ物心も、ろくについていない幼い子供だった。
「あっ、待って…‼」
同じ歳の女の子の速さにも遅れを取る俺は、あっ…と小さく声を上げ、追いつこうとして速めた足も制御出来ずに大きく転倒し、逆効果になってしまう。
「もう…‼宗達ったら…‼ほら、立てる?」
派手に転んで涙ぐむ俺に手を差し出してくれたその少女と俺は幼い頃からいつも一緒だった。どこへ行くのも何をするにも一緒でずっと隣にいてくれた。何かと手間を取らせる俺の面倒に呆れている場面もあったが、彼女は決して俺を見捨てなかった。いつも決まってドジを踏む俺に手を差し出してくれる。どんな状況でも必ず助け出してくれた。
「痛いよぉ…恭華ぁ…うぅっ…」
瞳に溜めた涙を一気に滝のごとく流す。
結局彼女の隣に自分から辿り着くことは出来ず、その綺麗な手を握ることも叶わなかった。
「大丈夫よ、どこも怪我してないから」
更に俺は自力で立つよりも先に見兼ねた恭華に立たせてもらう始末。ついでに転んだ拍子で服に付着した砂や石を払い落としてもらう。何から何まで彼女に頼りっぱなしだった。
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