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必死に伸ばしたその手が最愛の人に届く事などなく、空を握りその後俺たちを追う追っ手で彼女の姿は見えなくなった。彼女の生死がどうなったかなんて俺は知らない。
知りたくない。
結局俺は想い人一人守りきれずに自分だけ助かってしまった。
すまない恭華…守るって決めたのに…俺は…
涙は出なかった。怒りで涙なんか引っ込んでしまった。父上を心底恨み、敵の軍にも「殺してやる……!」の一言しか頭になかった。
恭華見てろ…
お前の敵は必ずとってやるからな…
胸に決めた思いが限界を迎えていた体を奮い立たせた。
「くそっ…!!」
馬に引きずりあげられ想い人も助けに行けずただ自分だけ今尚生き続けていることに納得がいかず怒りの矛先を父上に向ける。
「どうして行かせてくださらなかったのですか…!!!!俺は恭華を守ると決めていたのに…!!」
迫る追っ手など気にもとめず俺は父上に怒鳴りつける。
「父上はそれがお望みなのですか?!仲間を見捨てて逃げることが…!!」
「そうではない。確かに仲間を見捨てて逃げるのは武士の恥だ。だが武士などの身分よりも父として我が子を守りたかったのだ。武士でありお前の父という事も事実。せめてお前だけは父として護らねばならん」
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