ハナガタミ③

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ハナガタミ③

 花の香りが消えるように、そっと私は目を覚ました。  いつの間にか眠ってしまっていらしい。ティーポットの中のオレンジの花が何かを暗示する様に揺れていて、私は急に恥ずかしくなった。そんな気持ちになるような、不思議な夢を見た気がする。赤くなった頬をごまかす様にぐるりと周りを見渡した。  店内にはぼんやりとした橙色の照明が灯っていたが、窓の外はもうすっかり暗くなってしまっている。(なごみ)との約束の時間はとうに過ぎてしまっていた。  私は慌てて席から飛び降りて会計を済ませる。眠りこけて迷惑だっただろうに、店主は微笑を称えたまま応対してくれた。  挨拶もそこそこに扉をあけると、すぐ目の前に人がいた。 「沙羅ちゃん!」  慌てて謝ろうとして聞こえてきた声に顔を上げると(なごみ)がいた。走って来たのか髪はボサボサだし、真新しい白いシャツには皺が寄ってしまっている。それでも絵になるというのがこの男の罪な所だ。 「よかった……ここに居たぁ」  手繰り寄せるように抱きしめられてどきりとする。今更ながら自分が色気の1つもないTシャツとジーパン姿だという事が気になった。 「時間になっても来ないからすっげぇ心配してたんよ。電話でないし。そしたら龍己くんが店にいるだろうって教えてくれてさぁ」  「ついに愛想尽かされたのかと思った」と小声で呟く(なごみ)の声は弱々しい。私が謝ると「もっと反省して!」と怒られた。 「今日のために色々考えてたのに、全部吹っ飛んじゃったよ」  眉を下げて困った様に私を見下ろしてくる。どんな表情をしていても、やはり(なごみ)は美しい。この顔に見つめられると、どうしようもなくドキドキして目が離せなくなるのだ。  でも、今日の胸の高鳴りは1段と大きい。何でだろう。  寝起きだからじゃない。あんな不思議な夢を見たせいだ。奇妙な説得力を持つオレンジの花が、まるで少女の様な気持ちを私に蘇らせていた。  あの花は未来の暗示だと言う。  小さな頃から憧れていた、オレンジの花の花言葉。  期待に胸を膨らませて私は待つ。  高鳴る鼓動の音に紛れて聞き逃してしまわぬよう耳を澄ませて、彼がその言葉を告げるのを。
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