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ハナガタミ②
「恋人にセフレだと思われてる気がする」
夜も更けて洒落たバーに転身した『カルナヴァル』で、和は深刻そうな声で呟いた。
和はこの世の終わりのような顔つきだが、共にテーブル席を囲んでいる4人の仲間達は"さもありなん"といった表情だ。
「へーそうですか」
可愛らしい桃色のカクテルを眺める後輩、或葉の目は死んでいるし、
「自業自得じゃね」
1番付き合いの長い偉緒はばっさり切り捨てにかかってくる。
「爆笑」
向かいに座った譲二に至ってはパエリアの平鍋から顔を上げすらしない。
なんて友達がいのない奴らだ。
憎々しげに歯軋りしていると、隣で黙々とグラスを傾けていた紅一点、一条が呆れたようにため息をついた。
「やっと気づいたか」
和の恋人と友人関係である彼女は、2人の間にある致命的なすれ違いに気がついていたらしい。
「何で教えてくれないの!?」
「女子会の内容を野郎に漏らすのはちょっと……」
「せめてフォローしてよ!」
「他人の色恋沙汰に口出しするとロクな事にならんからなぁ」
周囲の美丈夫達の色恋沙汰に巻き込まれる事の多い彼女の言には説得力がある。
「俺が紗羅ちゃんのことずっと好きなの知ってるじゃん!!」
「知ってるけど無職のヒモ野郎の元に送り出す気にはなれないかな」
とりつく島もない一条の態度に、和はわっと泣き崩れた。
「紗羅はお前の一世一代の告白を覚えてないらしいぞ」
一条はそこへ更に追い討ちをかけた。
高校の同窓会の二次会で、目の前の男が紗羅に酒の勢いで「ずっと前から好きでした」と言って、その場で「私も〜」と返事をもらい、そのまま一緒に帰って行ったのはこの場にいる全員の知るところだ。
しかしあろうことか、当人である紗羅がその夜の事を綺麗さっぱり忘れてしまっていたのである。
途端に沸き立つのは周囲の男共だ。店の雰囲気にそぐわない喧しい大爆笑が響く。
「ザマァ」
「かなり大爆笑」
「今年の大笑い大賞殿堂入りおめでとうございます」
「お前ら本当に覚えとけよ。特に後輩」
涙目のまま腹を抱える友人たちを睨みつける。
自業自得であることはわかっていた。
酒の勢いの軽いノリで告白したこともそうだし、昔から女癖の悪さは筋金入りだった。半同棲するようになってからは、沙羅以外と関係を持ったことはなかったが、彼女は和のことを”そういう生き物”だと思っているような節さえある。
沙羅は和の色んな部分を許しているのだが、他者に向ける好意については一切信用していないようなのだ。
「なんでまたそんな事気にしだしたんだ?」
ショットグラスを傾けた一条に訊かれて肩を跳ねさせた。途端にじんわりと頬を赤くした和はもじもじと両手でグラスを弄びながら顔を逸らして、
「結婚、したいなって……」
「思って」と小さく萎んでいく声に、友人たちは揃って笑みを消した。水を打ったように静かになるテーブルに、和はぎゅっと目を瞑る。
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