始まり

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始まり

人の世は勇者によって守られている 勇者こそは全てにおいての頂点 そう、全種族の(いただき)に君臨する者なのだ その力は絶大 剣の一振りは海を裂き、ふっと息を吐けば森林が吹き飛び、地面を殴れば半径500mの地割れが起こる まさしく魔神、鬼神の如し 勇者が数ヶ月修練を積めば、神にも匹敵する者が生まれるだろう 特に勇者の中でも、人間の男性が覚醒しやすく、とんでもない逸材(いつざい)になる事がある そんな事もあり、人以外の他種族 エルフ、ドワーフ、獣人、ヴァルキリーの者達は皆、人間の男性に注目した 強い種族を生み出すには、強い勇者と一緒になる事 他種族の女達は人の男に血眼(ちまなこ) 全力で人間男性を口説きにかかった 俗に言われる、【人男狩(じんだんが)り】というものだ 女同士の男性をかけた奪い合いが始まった 時には血が流れる程の凄まじい争いも起こったとか そして人間には重大な問題があった 他種族の女性は人間の子を宿す事ができたが 人の女性は他種族の子を遺伝子の問題で宿す事ができなかったのだ そう つまり 人間の男が他種族に取られてしまう事で起きる現象は人間の減衰(げんすい)だった ー焼け焦げた大地ー 焦げ臭い匂いと黒い景色が広がる大地 そこで、女勇者一行達が魔王に立ち向かっていた 勇者に唯一対抗出来る者 それが魔王 febaa476-ee49-40f2-a88d-39748c7f3004 【魔王】 勇者は果敢に勝負を挑んだが、凄まじいパワーを持った魔王にたちまち全員返り討ちにされる 「引けっ、引けぇー!」 「くっ…覚えていろ!」 フラフラな者に肩を貸して退避する者や、傷ついた片腕を押さえてその場を後にする勇者達 あまり戦いには参加していない黒髪ポニーテールの子を除いては、みんなボロボロだった 「魔王様、逃してもよろしいのですか?」 家臣のシュヴァルが口を開く 「ああ、いい、いい。何度来ても同じ事だ」 「なんと慈悲深い…このシュヴァル…感服いたしました」 周囲を見渡すと地面にキラリと光るものがあった アレは… 先程の戦いの最中(さなか)、手刀で吹き飛ばした黒髪ポニーテールの短剣だ 地面に突き刺さっている それをゆっくりと引き抜いて声をかけた 「おーい、忘れものだ…これは君のだろ?」 それを聞いて、ピクリと反応するポニテ 振り返ってこちらにスタスタと歩き、近づいてきた 「なっ、あやつ、何を考えて…魔王様っ、ここは私にっ…」 構えるシュヴァルを手で制して後ろへ下がらせた 「ま、魔王様…」 彼女は魔王の手前で止まり、真っ直ぐな瞳で彼を見ながら口を開いた 「今回は仲間が付いて来たが…次は私一人で来る。その時はサシで勝負だ」 そう言って、魔王の手から短剣を受け取った 「ああ、いつでも来な。あっ、そうだ。帰りに気をつけてね、お嬢ちゃん。ここら辺には強い魔物が出るから」 「お嬢ちゃん?」 彼女は魔王を睨んだ 「あっ、ああ…お嬢さんだったか、ははっ…」 「ふっ、心配無用。お前こそ、他の者にやられるんじゃないぞ」 そう言って彼女は帰って行った 残った者は魔王とその家臣の二人だけ 戦いが終わると静かなものだ 「魔王様…先程の者は…知り合いで?あの女が攻撃して来ないのがわかったのですか?」 「んー…どうだろう…」 殺気は感じなかった あの黒髪ポニテ…どっかで見たんだよなぁ… 「……ぉう様…魔王様?」 「…あっ…まぁ、攻撃してきたとしたら、かわしていたさ。余裕余裕」 「万が一の事があるのでやめてくださいよ…そういうの」 ー魔王の屋敷ー 「いやー、魔王様。ご苦労様でございました。ささっ、どうぞどうぞ」 シュヴァルがお酒を()いできた 「おととと…」 おちょこすれすれ 口を(とが)らし(こぼ)さないようにゆっくり(すす)った 一度口に含み、味わいながら身体の中へ通す 「ああ〜…うまいな…」 内側から暖かい熱に包まれた いやー、気持ちがいい… 「ほら、シュヴァル。お前も、お前も飲め」 「え!」 「ん?どうした?僕の酒が飲めないのか?」 「ハハハ、私も?よろしいので?」 「ああ、いいよ、いいよ…ほら」 「ふふ、ではお言葉に甘えて…」 お互いのおちょこにお酒を()いで乾杯し合った 「本日の勇者撃退にぃ〜、イェーイ」 もうできあがってるよ…こいつ 「勇者撃退に〜」 二人で大いに盛り上がる 勝利の味は格別だ 「いやでも、魔王様のような強いお方が降臨して下さって本当によかった」 「あぁ…そお?…」 「ええ。魔物(こちら)側にも魔物(こちら)側なりの救世主が必要なのです。魔王様が下界に降りられてから早10年。負けなしの連戦連戦!もう無敵と言ってもいい!」 「いやぁ…褒めても何も出ないぞ、シュヴァル」 「いりませんよぉ、あっ、お酒()いでください。おかわり!何をしてるんですか、早く!」 「はいはい…」 急に無礼講な奴… シュヴァルは酒に酔うと感性豊かになる 普段が堅物な為、とても面白い 「そういえば…東山の魔王ミシェル様が勇者によってやられたそうですよ?」 「うぇっ!?あのみっちゃんが?本当に…?」 「本当です」 魔王ミシェル 彼も相当な実力者だったのだが 「どこも大変だな…」 「いやしかし、こちらに奴らが何度来ようがボロ雑巾ですよねー!いやほんと、魔王様は強い!誰も相手になりませんよ」 「いやいや…今日の奴らもなかなかの実力だったけどな…うん。しかしまいったよ、ホント…みんな可愛い装備だから…おぉん…ホントに。ありぁ、攻撃していいのかわからなくなるんだよな…」 「ふふっ、魔王様は本当に人の娘に弱いですね」 「…だってなぁ…みんな、西洋の鎧とか全身に(まと)って戦えばいいのに。あんな薄っすい装備着て…いやぁー、実に素晴らしい…」 二人で笑い合った 「あの装備はやばいと思うんだ…見たか?あれ」 「はい、見ました。際々(きわきわ)でしたね…水着かって感じの」 「ああ…あんな素肌見え見えの装備で……防御力がどれくらいあるんだっけか?」 「えーっと…計測器によりますと…防御力は1500オーバーでしたね」 1500…大型トラックが突っ込んで来てもへっちゃらなレベルである 「はぁ〜…考えられないな、ほんと。あれで1500オーバーだろ?世紀の大発見じゃないか。もっと布や鎧を多くした方が遥かに防御力が跳ね上がるだろうに…開発者は何を考えているんだか…バカげてる」 「ええ…でも魔王様はあの際々(きわきわ)でエッチなコスチュームが好きなんでしょ?」 「うん…もう少し布が少なくてもいいかもしれない…僕が開発者なら間違いなくそうしてる」 また、二人で笑い合う 「ふむ…どうですかな。そんなに人の娘が気に入ったのであれば、捕えて少し…味見してみては?」 「味見…おほぉ…味見ね…うむ… いやいや、女の子には優しくしなさいと、お母さんに言われてるしなぁ…うーん…道徳の先生にも怒られちゃうからやめとくよ…うん…そういうのはよくない」 おしいけど… 「おぉ…なんと紳士的な…」 いやー…非常におしいな… 「ところで魔王様はハーレムというものを知っておいでで?」 「あぁ、あのアニメとかでよくある…一人の男を複数の女で囲む会、的な…」 「そうです。興味がお有りですかな?」 …興味はある 人生で一度もモテ期が来た事もないしな しかし…ここで「有る」と即答したら下品でカッコ悪いのではなかろうか よし… 「いや、別にないけど…」 「じゃあいいや…」 「いやいや、話して?」 「いや、興味がないのであれば結構です…」 「いや、話せ」 「興味があるんですね…?」 「いんや…」 「じゃあいいや…」 くっそ… 「ある。興味あるから話して?」 「はい、実は…魔王様がハーレムになれる機会を小耳にいれまして…」 なっ…それは面白い 「ほぉ…で?」 「はい、近々人間の勇者同士で体育祭という祭りが行われるそうです。そこにこっそり乱入してみてはいかがでしょうか?」 「間違いなく血祭りになるな…」 僕が… 「魔王様が殺人をなさるのですか??」 「違う。どう考えても僕が袋叩きに会って血だらけなるだろ?」 「いえいえ…綱に化けて参加するのです。そうすれば問題ないかと…」 「綱に?どうして?」 「競技には綱引きというものがありまして… それは競技者が綱に身体を密着させて、引き合い、力比べをするという競技なのですが…」 「…なるほど、つまり」 「そう…綱に化けた魔王様を女の子達に取り合って貰うのです!どうです?ハーレムな気分を味わえるのではないでしょうか? これは沢山の若い娘達の柔肌に触れるチャンスですぞ?あの出るとこ出て締まるとこ締まった勇者の身体、薄い衣の体操服越しに感じる肌の温もり…皆、魔王様に密着し、引っ張り合い、奪い合うのです。いかがでしょうか?」 …‥… 「シュヴァル…お前…天才か」
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