草原の双コブラクダ

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草原の双コブラクダ 一  ある夏の日のことだ。バイト先から帰ってきた時、マンションの郵便受けに、不動産広告や宅配モノのチラシに混じって、一通のエアメールが投げ込まれていた。肌理の荒い封筒に書かれた、たどたどしいロシア文字を見て、それがモンゴルの友人テゲシバヤルからの手紙であることはすぐに分かった。  しかし、そこに貼られた切手のデザインは何故か青い地球をバックにしたスペースシャトルと宇宙飛行士の絵柄で、草原の国からの便りとしては余りにも風情のないものだった。ただ、切手売りを生業とする彼の見栄を垣間見たような気がして、僕はそれを微笑ましく思った。自由化の扉が開かれて間もない彼の国では、合衆国はまだまだ眩し過ぎる存在なのだろう。  さっそく部屋に戻り、封を切った。便せん一枚のシンプルな手紙で、そこには辛うじて意味の読み取れるミミズの這ったような日本語が並べられていた。恐らくウランバートルで日本語を学んでいる学生にでも代筆してもらったのだろう。時候のあいさつのようなものと、また機会があればモンゴルに来て欲しいという文面の後に一つの悲しい知らせが書かれていた。
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