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それは昨年の一月にホジルトに住む奥さんの父親が亡くなったということっだった。驚きはなかった。そこにあるのは、ただ来るべきものが来たという思いだけだった。何故なら、僕がモンゴルを訪れていた時からすでに、ホジルトの爺は一人で立つことすらできない身体になっていたのだ。あれからもう一年以上の月日が流れている。テゲシバヤルの妻であるフーヂャンの悲しみを思うと胸が痛んだ。爺は草原の大勢の家族たちに見取られながら、安らかに逝ったのだろうか。
そして僕は、無意識のうちに、あの日の夜のことを思い出していた。完全な満月だったという確かな記憶はないが、とにかく月の明るい夜だった。ゲルの天窓から忍び込んだ月の光が、ぼんやりと室内の輪郭を浮かび上がらせていた。僕の視線の先には寝台に横たわる爺の姿があった。その時に爺のとったある行動を見て、僕はこの人はもう長く生きられないだろうという印象を胸に刻んだ。
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