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Ⅲ
彼女の身体からは、菫の香りがする。甘くて品のある香りは、可憐な彼女によく似合う。その香りは出会った日から変わらず、僕を惹きつける。僕は必要以上に彼女の身体を触ることはないけれど。君に恋をしてしまった僕は、その麗しい肢体に触れたいと思うことはある。それでも、血に汚れた僕の手が君に触れるのは許されることではない。なにより僕は君を見つめるだけで頬が熱くなり、緊張してしまう。うぶな10代の少年のように。僕の少年時代に恋愛などどいう経験はなかったけれど、過去を塗り替えるかのように、いやそれ以上に彼女に愛を捧げている。
嗚呼マリー、今日も人が死んだよ。賑やかなグレーヴ広場で、断頭台はあまりにもあっけなく人の命を奪い去る。道を違えた者達を、僕はただただ殺していく。誰かがやらねばならない仕事だ。そして僕がこの家に偶々生まれた。ただそれだけのことだ。神はきっと"不幸な事故だった"と語るだろう。
君に手を伸ばすことができないとしても、心のなかで描くだけなら許されるだろうか。君と、どこかで幸せに過ごす日々を。
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