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「お前さあ」  野口はそう言って、しばらく黙った。そして柵から身体を離し、安人の肩にぽんと手のひらを置いた。 「本当にソレ、もうちょっと早く聞かせてくれりゃよかったのに。そうすれば、俺でもちょっとは安眠の役に立てたかもしれねーんだけどな」  安人は友人を見た。野口はちょっと苦笑したが、一息ついて少し真顔になった。 「親の転勤はまあ不可抗力だっただろうけどさ、大学はだってお前、日本中だか世界中だかから自分で選んで、自分で決めて来たんじゃねえの」  安人は瞬きをして友人を見つめる。 「そりゃまあ、そうだけど―――」 「チュウリってさ、根無し草というよりも、どこにポンと置かれても、それこそ宇宙でだってちゃんと根張って、すくすく育っちまえるような印象もあるよ。普通そんだけあっちこっち移されたら、どっかで土や水が合わずにへにゃっと枯れちまいそうなもんだけど、五回だか勝手に植え替えされたって、どんな土の上だって風の中だって、初めからそこにいたやつら以上に、色んなことすげえレベルでやってきたんじゃん。細い根っこはそのたびにぷちぷち切れちゃったんだろうけどさ、ぶっとい部分はちゃんと残ってきたってこと。すげえ生命力だぜ、それ」  そういえば、野口は農学部だった。  友人の言葉を聞きながら、安人は頭の片隅で思った。 「まして、大学は今までと全然違うだろ。お前が自分でここでやっていこうって決めて、自分の意志でしっかり根張った場所じゃないか。そんなお前を誰が引っこ抜けるんだよ。ちょっとやそっとじゃ、誰も、何モンも、お前からその場所奪えねえよ」  軽く肩を叩かれる。 「多分さあ、誰が聞いても同じこと言うぜ? 表現はともかく。なのにお前みたいなやつが、それ判るのに四年かかったんだな」
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