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 野口は安人から離れ、柵にもたれさせていた紙袋を再び手に取った。 「あんま寝てねえなら、うち来て仮眠とってく? どうせ謝恩会の後、下手すりゃ飲みに行って完徹になンじゃねえの」  軽い口調だった。 「いや」  安人は立ち上がる。 「俺も一度帰るかな」 「そっか。ま、あと一回ぐらいは部の連中で飲もうぜ。お前、実家って金沢だっけ。まだもうちょっとこっちにいンだろ。」 「まだっつーか、アメリカ行くまでほぼこっちにいる。図書館使いたいし、ラボに顔も出したいしさ」  野口は破顔する。 「何だ。最後でも何でもないんじゃん」 「だな。大体金沢も今親が住んでるってだけで、別に地元ってわけでもねえんだ、実は。まあ、またメールするよ」 「よろしく」  野口は言って踵を返す。その背に、安人は声を掛けた。 「サンキュ」  野口は振り返りざま、口元に手を当てて言った。 「卒業、おめでとう」  安人も手を上げる。 「お互いにな」  手を振り返し、野口は背を向ける。黒いスーツのその背を、安人はちょっと感慨と共に見つめてから、感謝の意を込めてもう一度小さく手を上げた。それから紙袋を手に歩き出す。  口元に自然に笑みが浮かんだ。  卒業、おめでとう。  春風が吹き抜けていった。 【了】
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