榊様

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赤と白の腰を揺らし 羽衣の様な長い尾鰭をゆらりと揺らめかせる。 その優雅に泳ぐ姿は 人々の目を惹きつけて止まない。 だけど。 透明硝子の中でしか生きられない琉金は……ただの見世物。 色欲の玩具。 逃げ出せる事も出来ず 一人寂しく、泳ぎ続ける…… ◆ 「……どうした」 行灯の消えた仄暗い部屋の中、窓格子から射し込む月明かりが金魚鉢を照らす。 その中で泳ぐ琉金の白い腹や尾が、青白くキラキラと光る。 「……風流だなぁ、と思っ……」 言いかけた僕の背後から榊様の手が伸び、肩を強く抱かれる。その瞬間、四十代特有の体つきと匂いが僕を包んだ。 「そんなにこいつが嬉しいか?」 僕の肩口から、榊様が金魚を見遣る、 「……はい」 そう答える僕の襦袢を乱し、露わになる肩。細い項に寄せられた榊様の唇から、熱くて柔い息が掛かる。 擽ったくて…… 首を竦め少し背を丸めると、無防備になったそこに顔を埋められ、吐息と共に舌が這う。 「……ん、っ!」 月明かりのせいで青白く光る僕の素肌を、愛おしむ様に榊様の指がするりと撫でる。 窓枠の上には風鈴が吊され、僅かな風が吹く度に、ちりん…、と涼しげな音を響かせる。 今回の金魚といい。前回の風鈴といい。 花魁でもない僕に、どうして榊様ともあろうお方が馴染みとなり、毎度土産まで持ってきてくれるのだろうか…… 「結螺(ゆら)に似ているだろう?」 「……そんな……。僕はこんなに美しくなんて……」 「こんな綺麗な顔をして、何を言うんだ」 榊様の手が、僕の顎を掴み上げる。 青白い光が、僕の顔や喉元全てを曝すように照らす。 そこに榊様の指が這われ、細い首に浮き出た喉仏を愛おしそうに撫で回される。 「お前だけでは寂しかろう。 私に似た金魚を連れて来て、お前の傍で泳がせよう」 耳元で甘く囁かれ、甘く体が痺れる。 榊様の指が喉元から胸元へと移り、僕の胸の小さな尖りを摘まむ。 捏ねる様に刺激を与えられれば、ぴくん、と体が反応し……蕩けていく…… 「……はぁ、…あっ、………嬉しい……です……、榊、さまぁ……、ぁんっ!」 「お前は私のものだ、結螺」 顎先を天に向けたままでいれば、榊様の唇が耳裏に触れ、そこを熱くする。 耳殻を柔く食まれ、舌先が穴に入り込んだ後……ふぅっ、と熱い息が外耳に吹き込まれて…… 身も心も甘く蕩けていった。
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