78人が本棚に入れています
本棚に追加
赤と白の腰を揺らし
羽衣の様な長い尾鰭をゆらりと揺らめかせる。
その優雅に泳ぐ姿は
人々の目を惹きつけて止まない。
だけど。
透明硝子の中でしか生きられない琉金は……ただの見世物。
色欲の玩具。
逃げ出せる事も出来ず
一人寂しく、泳ぎ続ける……
◆
「……どうした」
行灯の消えた仄暗い部屋の中、窓格子から射し込む月明かりが金魚鉢を照らす。
その中で泳ぐ琉金の白い腹や尾が、青白くキラキラと光る。
「……風流だなぁ、と思っ……」
言いかけた僕の背後から榊様の手が伸び、肩を強く抱かれる。その瞬間、四十代特有の体つきと匂いが僕を包んだ。
「そんなにこいつが嬉しいか?」
僕の肩口から、榊様が金魚を見遣る、
「……はい」
そう答える僕の襦袢を乱し、露わになる肩。細い項に寄せられた榊様の唇から、熱くて柔い息が掛かる。
擽ったくて……
首を竦め少し背を丸めると、無防備になったそこに顔を埋められ、吐息と共に舌が這う。
「……ん、っ!」
月明かりのせいで青白く光る僕の素肌を、愛おしむ様に榊様の指がするりと撫でる。
窓枠の上には風鈴が吊され、僅かな風が吹く度に、ちりん…、と涼しげな音を響かせる。
今回の金魚といい。前回の風鈴といい。
花魁でもない僕に、どうして榊様ともあろうお方が馴染みとなり、毎度土産まで持ってきてくれるのだろうか……
「結螺(ゆら)に似ているだろう?」
「……そんな……。僕はこんなに美しくなんて……」
「こんな綺麗な顔をして、何を言うんだ」
榊様の手が、僕の顎を掴み上げる。
青白い光が、僕の顔や喉元全てを曝すように照らす。
そこに榊様の指が這われ、細い首に浮き出た喉仏を愛おしそうに撫で回される。
「お前だけでは寂しかろう。
私に似た金魚を連れて来て、お前の傍で泳がせよう」
耳元で甘く囁かれ、甘く体が痺れる。
榊様の指が喉元から胸元へと移り、僕の胸の小さな尖りを摘まむ。
捏ねる様に刺激を与えられれば、ぴくん、と体が反応し……蕩けていく……
「……はぁ、…あっ、………嬉しい……です……、榊、さまぁ……、ぁんっ!」
「お前は私のものだ、結螺」
顎先を天に向けたままでいれば、榊様の唇が耳裏に触れ、そこを熱くする。
耳殻を柔く食まれ、舌先が穴に入り込んだ後……ふぅっ、と熱い息が外耳に吹き込まれて……
身も心も甘く蕩けていった。
最初のコメントを投稿しよう!