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帰りの会が終わった。それぞれ挨拶を交わしながら、部活へと急いでいる。
私も絵美ちゃんと、リュックを持って、教室を出ようとしていた。
「どうしよう。指揮者になってもたよお」
「ほらあ、美郷ちゃんが姫川さんを推薦するから。でも、みんなも美郷ちゃんを応援してたやん。沖田も言ってたし」
「何か言ったか?」
後ろから、沖田くんの声がして、びっくりする。絵美ちゃんも驚いた顔で振りむいている。
「ちょっと、びっくりするやん。ねえ、美郷ちゃんが指揮者になったのって、沖田が決定打をはなったからやでね」
「いや、姫川の言うこと聞いてたやろ? めちゃくちゃ美郷のこと認めてるやん。それは、今までの伴奏をしっかりやったっていうことや」
え? 認めてくれてる?
「姫川さんが? 私の伴奏で?」
沖田くんは、はあ? っと、わけがわからないという顔をする。
「あのな、美郷。自信を持て。ちゃんとお前には実力がある。指揮者は初めてで尻込みしてるかもしれんけど、それは、俺らがいるで大丈夫や」
「またあ、安請け合いして。でも、美郷ちゃんの頑張りは、ちゃんと伝わってたんよ」
絵美ちゃんの、にっと笑う顔に「うん」とうなずく。
私が一番、自分のことを認めていない。
「ありがとう。でも、沖田くん、自信を持てって、コーチかお父さんみたいやね」
すると、沖田くんの笑顔が見る間に消えた。ほんの一瞬視線を落とす。
でも、顔を上げた時には、にかっと笑っていた。
「そんならな。部活遅れるし」
「そうやね。美郷ちゃん、行こ」
「うん。じゃあまた」
沖田くんが行ってしまってから、気になって絵美ちゃんに聞いてみる。
「さっき沖田くんの表情が微妙だったけど、何かまずいこと言ったかな」
絵美ちゃんも微妙な顔になる。
「そっか。美郷ちゃんは途中で転校してきたから知らんかったか。沖田のお父さんて、交通事故で亡くなってるんよ」
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