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「何、ぼうっとしてるんやって」
声がしたので顔を上げると、沖田くんだった。
「袋、見せてみ。やっぱなあ。なんも入ってないやんけ」
沖田くんは、自分の袋と私のを取り替える。
「え? これ、せっかく集めたんでしょ」
「いいって。俺、超早ワザで集められるし」
そして、まだ咲いているツツジでもおかまいなしに摘んでいく。
「ちょっと、それまだきれいに咲いてるよ」
注意すると、イーッと、チンパンジーみたいに歯を見せる。
「さっきの姫川、メデューサみたいやったな」
「あかんよ、そんなこと言ったら」
何だ。さっきの話、聞いてたのか。
「美郷は選ばれたのにやる気無さそうやな」
やる気ではなく、自信が無いのだ。
「私より他にできる人いるのにって……思ってる」
沖田くんは動きを止めて、私を見た。
「姫川がイラッとしてるのは、そこやろ」
「え?」
「曲の向き不向きがあるから、美郷になったのは納得してると思う。でも、当の美郷の態度が気にくわんのやろ」
ああ、そうか。
先生は、この曲の柔らかいタッチは私向きだと言っていた。
姫川さんは自分がなれなかったことに腹を立てていると思ってた。そうじゃなくて、もっと私にがんばってほしいって思ってるの?
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