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「俺は、美郷のピアノやと歌いやすいぞ」
私の伴奏で、そんな風に思ってくれてるんだ。
でも、何だか声の調子が柔らかい。
「もしかして……私のこと、はげましてくれてるん?」
顔をのぞきこもうとすると、沖田くんは、ついっと一歩下がる。
「いや……同じ班として……何か力に……ああ! やっぱお前、無神経やぞ」
そう言うと、また猛烈な勢いで、花を摘み始める。
ほんとにそうかもしれない。
人の気持ちなんて、全然考えていなかった。みんなが応援してくれるのも当たり前に思っていた。
自信が無いなら、その分練習すればいいんだ。
沖田くんは、花を一輪摘むと口にくわえる。
「何してるん?」
何か言うけれど、花をくわえたままだから、聞き取れない。
「ミ・ツ。蜜吸ってる。やってみ」
一輪摘んで、おそるおそる花の付け根を吸ってみた。ほんのひとしずくの甘みだけど、口の中に広がっていく。
私の表情が変わったのを見て、沖田くんは得意そうに、にかっと笑う。
私もつられて笑った。続けて、4つ5つ蜜を吸う。
「美郷ちゃーん、どこにいるー?」
向こうで絵美ちゃんの声がした。
とっさに二人で、ツツジの繁みにしゃがみこむ。
「何で、俺ら隠れたんや?」
「さあ……何となく……」
二人で顔を見合わせて、くすりと笑う。青臭い草の匂いがした。
この日から、沖田くんへの見方が変わった。
もともと明るい性格だと思ってはいたけれど、ただ調子がいいだけじゃないことがわかってきた。
必要な時にちゃんと盛り上げる。ケンカの時は仲裁する。
どうしてそんなことが出来るの? ずっと聞いてみたいと思っていた。
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