君がいるだけで ~すれ違う恋、ふり向く愛。~

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岳晴 side 「卒業、おめでとう」 「ありがとうございます!」 校長先生から卒業証書を受け取り席へと戻る途中、在校生席の中に見つけた顔に微かに笑い掛けると、子供みたいな笑顔が返ってきた。 『校門の所で待ってるから』 届いたメッセージに、僅かに眉間に皺を寄せる。 まさか弦矢(げんや)の奴、卒業式の後教室に戻らずそのまま外に出たんじゃないだろな? 携帯電話をポケットに突っ込んで鞄と花束、そして卒業証書を抱えて教室を出た。 擦れ違う友人たちと「また会おうな」と言葉を交わしながら、廊下を早歩きで進む。 高校生活三年間の思い出が彼方此方に残る校舎。 なのに思い浮かぶのは弦矢との事ばかり。 「(たけ)(にぃ)と一緒じゃなきゃヤだ」と言われた入学後のオリエンテーション 「チビのクセにうぜぇ!」と絡まれた俺を庇って喧嘩になり喰らった入学後最初の停学 断れずついつい引き受けてしまい幾つもの係りを同時にこなさなければならなかった二年生の時の文化祭 廊下の窓から外を見下ろす。 借り物競争で思わず弦矢の腕を掴んでゴールまで一緒に走った三年生の体育祭 あの後、「なんで俺だったの?」と尋ねてきた弦矢にどう答えて良いのか分からず、ムスッとした顔のまま「…別に……お前が見えたから…」なんて言ってしまった。 バカだよな…たった一言、言えば良いだけなのに それでも弦矢は笑ってくれた。 ずっと俺の隣で、昔と変わらない子供みたいな笑顔で… 弦矢が一緒だったから、どんな大変な事も乗り越えられた。 弦矢が一緒だったから、授業もテストも毎日のどんな些細な事も楽しい思い出に変わった。 弦矢が居たから…、弦矢が居るだけで… 階段を降りる途中で、その先の廊下によく見知った背中を見つけて、残りを駆け足で降りる。 「弦矢っ!!」 振り返った顔が子供みたいな笑顔を見せるから、その腕を掴んで下駄箱の陰へと連れ込む。 周りに誰も居ない事を確認して、一瞬だけ唇を重ねた。 「…え?」 「……特別だからな…」 「…な…んで…?」 「……俺、……もう…卒業するし…」 「……もう1回、…チューして?」 「…弦矢がちゃんと高校卒業したらな」 「……それまでお預け?」 「………そうだ…」 「え~ケチ~」と言いながらも嬉しそうに笑う横顔に、多分俺の方が我慢できないかもなんて思ってしまった。
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