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1.転校生
「ハイハイ、静かにしてください。転入生を紹介します。高遠 水面くんです。自己紹介を。」
担任から自己紹介を促された瞬間、心臓が痛い。汗が吹き出るし、足も手も震える。怖い。
「あの…たかっ…えっと。」
喉がカラカラでうまく声が出せない。一度静かになった生徒達が再びガヤガヤとざわつき始めた。
「ぜんっぜん、聞こえませーん」
「ナニ!?」
「お前達がうるさいんだよ」
「真面目かよ」
「おい、漏らしちゃったのか?」
「なぁ、しっかり話してくれ!!!」
頭が真っ白になり、気づけば走り出していた。まただ、またこれだ。嫌なことに立ち向かえず逃げ出してしまう。前もそうだった。だから僕は病気になってしまって、こんなへんぴな土地まで来てしまったんだ。そうにちがいない。
教室を出て廊下を走り抜け正門でへたりこんでいた。泣きたくないのに涙が出てくる。
「どうしたの」
「…ぐっ…うっ…え?」
そこには同じ制服で女性のような男性のようなどちらとも言えない顔の造りをした人が立っていた。肩口で髪をまっすぐに切りそろえているものだから余計曖昧だ。
「転入生?」
しゃがみこんで僕の顔を覗き込む。引き込まれそうな美しさだ。
「はーっ、クラスのやつらにいじめられたんだろ!あいつら転入生をいつもそうやってからかうんだ。自分たちだってはじめはオロオロ泣いてたくせに。」
「あの」
「あぁ、僕は宇美野 理仁。大丈夫だよ、自分を責めるな。他人とうまくやれないのは病気のせいだ。それを療養するためにここに来てるんだろ。」
自分を責めるな。なんてはじめて言われた。いつもいつもお前が悪いってみんな言っていたのに。
「あの…ありがとうございます。」
「いえいえ。名前は?」
手をさしのべられる。とっていいのかわからず戸惑っていると、腕を掴まれ起こされた。
「高遠 水面」
「じゃあ水面って呼ぶよ。」
「あの、どうして」
どうして、助けてくれたの。どうして、僕なんかと親しげに話してくれるの。疑問だけが浮かび上がり、言葉が出ずに固まっていた。
「ん?だってこれから同じ場所で過ごすんだ。仲良くしよう。私のことは理仁って呼んで。水面さえ良ければ友達になってよ。」
まるで心の声が聞こえたみたいだ。ほうけていると遠くから僕を呼ぶ声が聞こえた。しまった、教室から逃げ出してきたんだった。
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