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2.転校生
「高遠!あぁ、いた。走るの速いよ。…あれ、理仁。体調は大丈夫…か?」
「うん、大丈夫。ユキこそ大丈夫?」
走ってきた彼は息を整えつつ僕をじろりと見てにんまりと笑う。先ほど周囲をうるさいと注意していた生徒だ。同い年とは思えないほど大人びている。
「やってくれたな、高遠 水面。僕は奏ユキ。学級委員長をしている。よろしく。」
「あっあの、さっきは本当にすみませんでした。」
握手しようと伸ばしてくれた手に僕が腰を折り曲げて謝罪したため。手と頭がぶつかる。
「あっ、がっ…」
「えぇ!?ごめんごめん大丈夫か?」
「僕の方こそ、重ね重ね」
「水面!堅苦しい。敬語やめて。二人ともコントやんなくていいから、暑いし教室行こ。」
理仁に背中を押され歩きだす。走っていて気がつかなかったがジリジリと焦げそうなほどに暑い。今朝かくれ島に着いた時は過ごしやすい気温だったのに。僕達は足早に校舎の中に入る。
「理仁さんってどこか悪いんですか?」
先程委員長に体調を気遣われていたからなんとなく聞いてしまったが本来こういった踏み込んだことは聞くべきではなかったかもしれない。などと言ってしまってからうだうだ悩んでいると、
「私のことは理仁って呼んで。あと、敬語禁止。喘息なんだ。たいしたことないんだけど、みんなより教室にいる時間が少ないからおかけで病人扱いだよ。ここに来てる子供はみんな病気なのにさ。」
理仁はあっさりと理由を話してくれた。するとユキは少しだけ咎めるような口調で言った。
「あのね、理仁。ここに来たばかりの子はあんまり病気の事実を認められないものなんだからもう少し気を使うとか…そのあっけらかんな感じが理仁の良さでもあるけれど。」
「そうそう、私の良さ!体調が芳しくなくて、教室に毎日必ず誰かが居ないのもここじゃ普通普通」
病人であることが許される場所もあるのか。うつる病でもないのに意味嫌われ隔離されてきた僕にとっては衝撃的なことだった。
「なんだか驚いています。普通の人みたいで。」
すると2人は笑いだし、わかるわかる、そうだよなぁ、なんだか新鮮だ。と、口々に言っていた。僕の心の氷が二人の笑顔に溶かされていくようだった。共感なんてされたこともなければ、対等に話をしたこともない。そんな僕が今 会話のなかに、社会のなかにいる。
「水面。どうして泣いているの」
僕の少し前を歩く理仁が窓から漏れる木漏れ日に照らされながら振り返った。きらきらと輝いている。
「あの…」
「おい、ユキ!どこをほっつき歩いている。」
前方から破裂音かと思うほどに大きな声が聞こえてきて、思わず身をすくめ言葉を引っ込めた。
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