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3.遠回り
「あぁ、雷来。声がデカイな。探しに来てくれたのか。」
「は?探しになど来ていない。先生に探しに行けと言われた。おい、転校生。」
しっかり話せと大きな声で叱責してきた生徒だ。ギロリとこちらを睨みつけている。冷や汗と喉の渇きがひどい。体温が下がってきた。すると理仁が肩に手を乗せている。ちらりと見やれば微笑みが返ってきた。
「ユキを…いや、委員長を困らせるな。行くぞ。」
「わかったよ雷来。」
ユキはこまったように笑う。雷来は仏頂面やだ。先を行く雷来に連れだって歩こうとしたユキが振り返る。
「水面、こいつ悪いやつじゃないんだ。またゆっくり話そう。理仁!」
「なにー?」
「水面とゆっくり教室に来たらいい。」
「はーーい!」
二人きりになった僕たちは何を話すでもなくただ歩いていた。何を話したらいいとか困惑するでもなく、自然体でただそこにいた。きっと理仁は他人を安心させたり穏やかな気持ちにさせるような力があるんだろうな。僕は今、これまでの生活とはかけ離れたあたたかい時間を過ごしている。
「水面、これからよろしくね。」
「あっ…うん。う“っ…」
「え、なになにどうした?」
「気持ち悪い」
結果的に言えば吐いた。教室を目前に吐いた。保健室のベッドで横たわる僕の隣には体操着に着替えた理仁が笑顔で座っていた。
「宇美野さん…いや、理仁。本当にごめんなさい。」
「そうだね。私、水面のゲロまみれになったからね。」
「うぅ…本当に申し訳ないと思っています。」
顔色が悪い僕を心配して駆け寄った理仁は吐瀉物を全面的に被った。吐いた僕を責めるでもなく、そうかーとだけ呟き、床に落ちた吐瀉物にちり紙を被せ、どこから持ってきたのかつんとした臭いの洗剤を振り撒きながら淡々と片付けを終えた。手慣れていた。
「ごめんごめん、もう気持ち悪くない?」
「うん…。片付け馴れてたね。」
「あはは。突然吐いたり暴れたりするやつ結構いるからね。」
「そう、なんだ。」
やはり精神的に不安定な生徒が多くいる学校なのだ。この学校の存在をもっと早く両親が知っていたら僕のことで悩み、家族が壊れてしまうことも無かったのだろうか。こんな状態で生まれ出てしまって本当に申し訳ないことをしたと思う。話していると不意にカーテンが開いた
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