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5.教室にて
「たのもー」
戦いに挑むかのように理仁は教室に入っていった。丁度、授業と授業の間だったらしく、雑談や準備にざわめいていた教室が理仁の登場により視線が集まり、ざわめきが止む。胃がひっくり返りそうになる。だが、もう出るものはない。強いて出せるなら胃液ぐらいのものだ。
「理仁、水面。ゆっくり来たらいいとは言ったが遅すぎないか。どこで遊んでたんだ。」
「いや、この校舎を案内してたらどこにいるか分からなくなっちゃってね。」
「ごめん」
「当たり前だろ。なんでそんな無謀なことを…まぁいいや。水面、席はね雷来の隣だよ。噛みついたりしないから怖がらなくていいよ。」
「俺をなんだと思ってるんだ。」
「ひっ」
「なんだその態度は。」
「ちょっとー噛むじゃん。ユキさんちゃんとしつけてくださいよ。」
「おかしいな。ほら雷来、ハウス~」
「バカにするな!」
二人にもてあそばれて、雷来は怒りに震えている。冗談が通じないのだ、この男。恐ろしくなって二人を止めようと思うがそもそもの怒りの原因は僕であって、ここに口をはさんでいいいのだろうか。むしろあおってしまうのではないか。最初は理仁と僕の登場に注目していたクラスメイトも三人のやり取りに、またか。という反応になり徐々に興味をなくしていった。既にそれぞれの席に着き始めている。
「おい、転校生。この二人に付き合っていたら日が暮れる。席はこっちだ。」
意外にも案内してくれたのは雷来だった。本当に悪いやつでは無いのかもしれない。席に着くと教室での挨拶の際、投げ出してきた鞄が机の上に置いてあった。落書きも無く、型崩れてもしていない状態で手元にあるのが不思議だった。前の学校ではありえなかったことだ。この鞄は両親からの最後の贈り物だ。大切にしなければ。筆記用具を出そうと中身をまさぐると、白地に青い花が印字された封筒が出てきた。両親だろうか。昨夜僕を見送る時は母が窓辺からこちらをじっと見ているだけだった。とても別れの言葉をくれるような状態には見えなかったが。
(宇美野 理仁に気を付けて)
手紙を見てみると、この一文が書かれているのみだった。いったいどういう意味だろう。恐ろしくなって理仁の方を見ると、雷来が怪訝そうにこちらを見ていた。
「なんだ」
「なんでもない…です。」
とっさに机の中に手紙を隠す。気を付けるべきは今僕を睨みつけているこの男ではないのか。とにかく人に見せられるようなものではないので隠してしまった。誰かを侮辱するわけでも脅迫するわけでもないが無視できない手紙をいったいどう受け止めたらいいのかわからないまま授業が始まってしまった。
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