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「こ~んちは~!け~いす~け兄さ~ん!」 勢いよくミモザ館のドアを開けると、丁度フロントに居た奎亮(けいすけ)兄さんが吃驚した顔で俺を見て、そしてにっこり笑った。 「相変わらず元気だなぁ、大翔(ひろと)は」 「まあね~。…あれ?奎亮兄さん、それ何ていう花?」 よく見ると兄さんはガラスの花瓶を持っていた。 その花瓶には小さな白い花が鈴なりに咲いた植物が生けられている。 「これ?これはスズランだよ」 「へぇ、可愛らしい花だね」 「今日は5月1日だろ。この日はフランスでは “スズランの日” と言って、愛する人やお世話になってる人にスズランの花を贈るんだってさ」 「へえ~!物知りだね、奎亮兄さん!」 「時々ウチに泊まるカメラマンの人が教えてくれたんだよ。スズランの花言葉は ”再び幸福が訪れる” なんだと」 「ふ~ん、じゃあさ外のミモザは?ミモザの花の花言葉は何?」 「…ミモザの花言葉は…… “秘密の愛” だって」 「へえ~。でもさぁ奎亮兄さんの幸せもぉ秘密の愛もぉ、ひとつしかないよね~?」 ニヤリとして言うと、兄さんの頬がほんのりと染まった。 「…何の事だよ」 「またまた~、照れちゃって!那智(なち)兄さんの事に決まってんじゃ~ん!」 「んなっ?!な、何バカな事を…!!」 「大丈夫!俺、口堅いから2人の事を言い触らしたりしないって!」 耳まで赤くなった奎亮兄さんの肩をポンポンと叩くと、兄さんが近くに置いてあったタオルを俺の顔面に投げつけた。 「うっ、煩い!さっさと荷物持って来いよ!」 「もう~。暴力ハンタ~イ!」 笑いながら逃げる様にドアへと向かう。 ドアノブに手を掛けた瞬間、俺じゃない力でドアが開いた。 「おわっ?」 「あっ!」 其処に立つ人を見て、一瞬何かの冗談かと思う。 直ぐ様後ろを振り返り、大声で奎亮兄さんを呼んだ。 「兄さん、奎亮兄さん!兄さんの幸せが遣って来たよ!」 「バ~カ、何言って…」 中へと戻っていた奎亮兄さんが笑いながら出て来る。 俺と向かい合わせに立つ人を見て、さっきよりも吃驚した顔になった。 「那智っ!?」 「久しぶり、奎亮」 ドアの向こうに居たのは、奎亮兄さんの恋人の那智兄さんだった。
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