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「それじゃあ俺は厨房に居るんで、何かあったら呼んでください」 「うん。ありがとう、透真」 水谷さんの部屋を出て階段を降りて行くと、一番下の段に蹲るようにして座る一ノ瀬が見えた。 「…?」 よく見ると、両手で顔を覆っている。 静かに階段を降りて近づく。 「どうかしたのか?」 「うわあっ!?」 飛び上がらんばかりの勢いで振り返った一ノ瀬は、耳まで薄赤く染まっていた。 「どうしたんだよ?」 「いや…あの、その…」 しどろもどろになりながら視線を彷徨わせて言葉を探す一ノ瀬に、小さく首を傾げる。 「イチ?」 「あの…さぁ、誰にも言わないでくれる?」 「うん?何を?」 「実はあの2人…」 「奎亮さんと水谷さん?あの2人、恋人なんだってな」 「えっ?!なんで…それを…」 「奎亮さんから聞いた。イチも知ってるんだろ?」 「え?あ、そうなんだ…うん、知ってる」 奎亮兄さんってば、しっかりちゃっかり味方を増やしてるんだ… 「で?あの2人がどうかしたのか?」 「…いや…………その…」 「………もしかしてイチ、水谷さんの首許の赤い痕……見た?」 「……う、うん…て事は透真さんも?」 「うん。て言うか、奎亮さんの部屋から水谷さんをあの人の部屋まで運んだの、俺だし」 「えっ?!そっ、そうなの!?」 け~いす~け兄~さーーん!!! 自らバラす様な事、何でするかな~!!? 「今朝奎亮さんが出て来なかったから部屋まで行ったら水谷さんがベッドで怠そうにしててさ…で、奎亮さんの代わりに水谷さんを2階まで運んだ時に見えたんだよ」 「…へ、へぇ……そうだったんだ…」 透真先輩は “そういうの” を何とも思わないのかな… 「……イチは反対なのか?あの2人がそういう関係なの」 「え?」 一ノ瀬が暫く俺を見た後、首を振った。 「そんな事無い。寧ろ応援してる。だって2人共大好きな幼馴染だし、あの2人がどれだけお互いを大切に想ってるかちゃんと解ってるつもりだよ」 少し視線を逸らした一ノ瀬が、また俺を見た。 「……透真さんは…」 「え?」 「透真さんこそどう思ってるの?透真さんには彼女が居たでしょ?もし興味本位だけなら2人をそっとしてあげて。応援もお節介も何も要ら」 「興味本位じゃないよ。俺は奎亮さんは本当に良い人だと思うし、そんな人が大切に想う人だから2人の力になりたいだけだ」 じっと俺を見た一ノ瀬が次の瞬間、本当に嬉しそうに微笑った。 僅かに俯くと「ありがとう」と小さく呟いた一ノ瀬に刹那…見惚れた。 その時の一ノ瀬は、本当に可愛かったから。
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