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腕時計を見ると、午後2時を少しばかり過ぎた頃だった。
「どうしよっかなぁ、…しょっちゅう会いに行くのもなぁ…」
透真先輩がミモザ館に来てまだ1週間も経っていない。
それなのに再々会いに行くのは何だか申し訳ない様な、迷惑じゃないかという気がして…でも、会いたいという気持ちは日毎にどんどん強くなって行く。
気がついた時は既にミモザ館の近くの通りまで来ていた。
「あ~、どうしよう。奎亮兄さんにまた揶揄われちゃう~」
配送で使っている車の運転席でハンドルに顔を突っ伏しながら、それでも性懲りも無く隙間からミモザ館を窺い見る。
「透真さん、ひょっこり出てきたりしないかな……ん?あの人…」
ミモザ館の前で何度も行ったり来たりを繰り返す人影に気づいて、ハンドルから顔を上げる。
大きな鞄を持っているから多分ミモザ館の宿泊客なんだろうけど、何故か入ろうとせず、さっきからずっと数メートル手前をグルグルと回っている。
「…何だぁ?…もしかして那智兄さんの追っかけ?あっ!まさかストーカー!?」
奎亮兄さんは普段は優しいし面倒見が良いけど、その分、本気で怒ると怖い。
もし那智兄さんのストーカーがミモザ館にまで兄さんを追っかけて来たなんて知ったら…
急いで車を発進させて、ミモザ館に向かった。
「こんちは~。ミモザ館をご利用ですか?」
車をミモザ館の直ぐ前に停めると、運転席から降りて人影に近づく。
営業用スマイルで声を掛けると、その人は少しキョトンとした顔で俺を見た。
「…え、えぇ…」
「じゃあ、そんな所でウロウロしてないで中へどうぞ」
「え…あ、いや…」
ミモザ館のドアを開け、どうしようかとまだ迷っている風な背中を少し強引に押す。
「あ、あの…」
「どうぞどうぞ~」
白くて柔らかそうな首筋から、ほんのり良い匂いがした。
「奎亮兄さ~ん!お客さんだよ~!」
フロントから奥に向かって大きな声で兄さんを呼ぶと、直ぐに声が返って来た。
「大翔~、お前なぁ最近うちに来過ぎじゃないかぁ?」
笑いながら出て来た奎亮兄さんが、俺の隣に立つ人を見て目を見開く。
「えっ!瑞希さん?!」
「ど、どうも…こんにちは。お久しぶりです、奎亮さん…」
…ん?…奎亮兄さんとこのストーカー(仮)さん、知り合いなの?
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