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林先輩と会ったのは高校に入って少し経った頃だった。 入学した高校は部活動が必須で、放送部に入部したものの両親が雑貨屋兼運送業をやっていた俺は手伝い等で幽霊部員だった。 そんなだったから、ある日「生意気だ」と上級生に絡まれた俺を助けてくれたのが、同じ放送部で1年先輩の林先輩だった。 「家の仕事を手伝うのって褒められて然るべきなんじゃないの?」 そう言って何度と無く俺の味方をしてくれた、穏やかで優しくて憧れの人。 本気で恋するのにそれほど時間は掛からなかったけど、当時の先輩には彼女がいた。 だから俺も恋心は胸に秘めたまま高校生活を過ごし、先輩とも卒業後に会うような機会は一度だって無かった。 なのに……今になってこうして会うなんて… 「林先輩、コックになったんですね」 「まあね、いろいろあってさ。お笑いだろ?DJになるなんて言ってたのにさ」 「そんな事無いですよ、凄いじゃないですか!料理で人を幸せにできるなんて!」 林先輩が一瞬驚いた表情を見せてから、にっこり笑った。 「ありがとな。一ノ瀬ぐらいだよ、そんな風に言ってくれるのは」 先輩の笑顔に胸の奥の奥底に仕舞い込んだ筈の感情が、小さく動き始めるのが分かった。 「そっちは?」 「え?」 「そっちこそ今は何してんの?」 「俺は相変わらず家業の手伝いです」 「大翔はこのミモザ館へ食材や日用品を運んでくれてるんですよ」 「へえ!そっちこそ凄いじゃん!やっぱ一ノ瀬は凄いな~」 「…っ!」 不意に立ち上がった先輩が伸ばした腕を俺の頭の上に置いた。 そのまま「よしよし」とでもいう様に撫でられて、胸がぎゅっとなる。 「林さん、明日から…いえもし良かったら今日からでもお願いして良いですか?」 「え?」 「奎亮兄さん?」 「おっ、おい!奎亮!」 奎亮兄さんの唐突な言葉に那智兄さんも駆け寄って来る。 「それは……勿論ありがたいですが…でも引っ越しとかがまだ」 「その件でしたら、客室に改装する予定だった辞めたスタッフの部屋をそのままにしますので、構わなければ其処を使ってください」 「兄さん…?」 「…良いんですか?」 「勿論です!」 「ありがとうございます。宜しくお願いします」 林先輩と奎亮兄さんが、笑って握手を交わした。
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