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「じゃあ頑張ってくださいね、林先輩」 「ありがとう。これから宜しくな、一ノ瀬」 林先輩が手を伸ばした。 一瞬どうしようかと思ったけど、その手を握る。 さっき俺の頭を撫でてくれた手が優しく握り返してくれた。 「それからさ、俺の事は “先輩” じゃなくて良いよ。もう学生じゃないんだし」 「え?でも…」 「一ノ瀬はオーナーの事を名前で呼んでるけど、付き合い長いのか?」 「う、うん、幼馴染っていうか…」 「じゃあ、俺の事も名前で呼んでよ。あとタメ口で良いよ」 「えっ?!」 「これからはさ、友人としてもっと一ノ瀬の事を知りたいから」 「………」 「嫌か?」 「…ううん、それなら先輩も俺の事は “ヒロ” とか “イチ” て呼んでよ」 「……良いのか?」 「当たり前じゃん!高校の友達は皆、俺の事をそう呼ぶよ!」 「…分かった、じゃあ…イチ…ありがとう」 「うん、透真…さん」 「奎亮、本当に良いのか?こんな簡単に」 食堂を出た奎亮を追いかけ声を掛けると、振り返った奎亮がすっと人差し指を唇の前に立てた。 「え?」 「那智、こっちへ来て」 そのまま腕を引かれて、オーナーズルームに入る。 オーナーズルームと言っても特段豪華な作りではなく、普段から奎亮がプライベートに使っている部屋だ。 「奎亮?」 「林さんてさ、これは俺の勘でしかないけど…多分…大翔の好きな人だと思うんだ」 「えっ?!大翔の!?」 「しっ!那智、声が大きい」 「ご、ごめん」 「さっきさ、林さんが大翔の頭を撫でた時の彼奴の表情を見てさ…」 奎亮は相変わらず優しい。 そしてちゃんと人を見てる。 それが誇らしくもあり、少し羨ましくもある。 「…大翔の為に彼を雇うのか?」 「それもあるけど、まあ一番は早く人手を増やしたいのが本音かな。流石に今の状況はキツイよ」 「そっか」 笑う奎亮に笑みを返した。 笑い返した那智を真っ直ぐに見る。 「そんな事より何かあったんじゃないのか?」 「え?」 「今日だって何の連絡も無しに来ただろ?」 「……ごめん、迷惑だったよな?忙しいのに」 少し俯いた那智の頬に手を添えて、そっと顔を上向かせる。 「何か…あったのか?」 「………」 「那智、俺は急に来たからって迷惑とか困るだなんて別に思ってないよ?ただ那智が元気無さそうに見えるのが心配なんだ」 「……奎亮…」 那智の瞳が揺れた。 「俺に隠し事はしないでくれ、那智」
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