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氏原さんにミモザ館を案内してもらった後、厨房に入って大体の作りを確認する。 「うん、これだけの設備があれば充分だな」 シンク周りや調理台の縁にゆっくりと手を滑らせる。 「これから宜しくな、相棒」 以前に勤めていたホテルのレストランは、有名な店だけあって流石に立派な作りだった。 けれど人間関係がお世辞にも良好とは言えず、常にギスギスしていた。 そんな時、偶々俺が雑誌の取材を受ける事になった。 後で分かった事だけど、フロアマネージャーが俺を強引に推薦したらしく、それが発端となって俺に対する嫌がらせが始まった。 最初は無視や仲間外れ程度だったけれど、徐々にエスカレートして行き制服を破られたりストーキングされるようになった。 流石にこれ以上は我慢の限界だと退職願を出すと、何人かの同僚には思い直すように言われた。 でも、最早その店に何の未練も無かったからきっぱりと店を出た。 その後、偶々見つけた求人広告でこのミモザ館という新しい環境に出会えたのはラッキーだった。 オーナーの氏原さんはとても人当たりが好く、少し話しただけでも彼の人柄の良さが伝わって来る。 あの人となら一緒に働いてもきっと楽しいだろう。 「それにしても、まさか此処で一ノ瀬…イチに会うなんてなぁ」 数時間前に別れた、まだ少し幼さを残した笑顔を思い出す。 一ノ瀬大翔。 高校で同じ放送部に所属していた事以外は何の共通点も無いけど、それでも記憶の片隅に残っていた。 大会とかに率先して顔を出していた訳じゃない。 理由を聞いたら親の仕事を手伝っているから校内での活動以外はあまり参加したくないと言っていた。 それを我が儘だとか生意気だと憤る部員は居たし、その気持ちは分からなくも無い。 けれど部内のミーティングには真面目に顔を出していた彼奴を、俺は簡単に非難するのは違うと思った。 「これから、もうちょっとイチの事を知る切っ掛けになるかな…」 そう思うと、少しだけワクワクした。
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