おかえり、ただいま

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 そっと私を腕から解いて、顔を覗きながらもう一度言う。 「ごめんね、俺さ、ユウちゃんのこと好きだわ」  眉を下げて、申し訳なさそうに笑う。 「なんで謝るの?」 「だって、困るでしょ。俺の気持ち言われても」  どうして、と思いながら、今まで散々色々仕事に掛けてきた自分自身を振り返った。それは膨大な量と質で細かい集合体ではあるけど、私の暮らしのすべて。  何も言えずにいると慎太郎は一回小さく笑った後、オーバーに頭を抱えてしゃがみ込んだ。 「ああ、駐在終わって帰ってくるまで言わない方がよかったかも」  途端に小さく縮んだ慎太郎が子供っぽく見えて、可笑しくて笑ってしまう。 「笑わないでくれよもう」  私を見上げながら、そういう彼も笑ってしまっている。客観的に見てバカなやり取りをしている私たち。久し振りに感じるほだされた心地に私は浸った。
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