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おかえり、ただいま
日本に帰国してすぐに連絡をくれたのは慎太郎だった。
内緒にしていたわけではないけど、たった1週間の日本出張だからと仕事の関係者ぐらいにしか連絡を入れていなかった。慎太郎にはどうやら私の母がそれとなく連絡を入れたらしい。
《お母さんから聞いたよ。ユウちゃんおかえり、お疲れさま》
何気ないその短い文章は、慎太郎の穏やかな声で脳内再生される。
空港からホテルの最寄り駅まで向かう連絡バスは、夜の高速道路を滑るように走る。窓越しに見えるビル群の明かりが、妙に感傷を掻き立てる。
《ただいま。たった1週間の出張だけど、久しぶりに美味しい日本食たくさん食べて楽しむことにする!》
ドイツから12時間のフライトは直行便とはいえ、狭い機内でメールや資料作成に追われて疲れるものだった。出張前の大きな会議やその後始末も重なって、頭は正直日本で余裕を持って仕事ができる状態ではなかった。
慎太郎には努めてポジティブに返信したつもりだったけど、すぐに届いた返事から見透かされているようだった。
《どうせ無理しちゃうんでしょう。今日くらいもう仕事は無しにして、日本の美味しい牛丼かカップ麺でも食べて、まずはよく寝ないとダメだよ》
ジャンクフードばかり並んでいて、慎太郎らしさを感じた。
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