おかえり、ただいま

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 私たちは、たまたまお互い家が近所で、幼い頃から家族ぐるみで付き合いがあった。中学、高校と学校は違っても時々バーベーキューや花見をする程よい友人関係だった。  母が事務の仕事を始めてから、次第に疎遠にはなっていったけど、大学の入学式でばったり出くわし、同じ学部だと知ってお互い顔を見合わせた。  私は、いつか海外で働いてみたいと大学入学当初から周りに話していた。だから貿易会社に就職して、5年目でドイツ出向が決まった時、慎太郎は手放しで喜んでくれた。  その時彼には相当な束縛を強いる彼女がいて、学生時代のように思い立った日に会うことはなかったけど、その時ばかりは彼からお祝いに飲みに誘ってくれた。  慎太郎との会話は気楽で、学生時代に一瞬戻ったような気になれた。その他愛もない時間は、しゃかりきに仕事ばかりして暮らしていた私にとって、誰かと会うことの優先度を上げるきっかけになった。 「ユウちゃんはさ、一生懸命働いていて格好いいよな。俺は尊敬してるし、これからもずっと応援してる。次会う時には、俺ももう少しスマートな社会人になれるように頑張るよ」  自嘲気味に話す慎太郎は、新卒で社会科の教師として採用された高校を辞めたばかりだった。深くは事情を聞いていなかったけれど、人間関係で相当苦労した末の退職だったと人伝てに聞いていた。
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