おかえり、ただいま

　慎太郎に会ったのはそれが最後だった。私はドイツに赴任するまで、彼に会ったのを皮切りに、今まで断り続けていた飲み会で人と会話をすることに精を燃やした。

　その様子に周囲は遂に雪解けが来たと盛り上がった。今までの私の頑固で人を寄せ付けない性格を酒の肴にして、何度も乾杯しようと声をかけてくれた。最後の会社の壮行会では、今まで押し込めていた感情が噴火したかのように、大泣きしながら挨拶をするほどになっていた。

　だから日本から飛び立つ時に、私に人との繋がりを大切するきっかけをくれた慎太郎に本当は感謝を伝えたかった。でも余計な詮索を彼女から受けるんじゃないかと、小さな遠慮をして何も伝えずに終わってしまった。

　ドイツに移ってからも、仕事で疲れて家でぼんやりお酒を飲むたびに、そのことがふと心に浮かんで、軽く後悔していた。