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「もし私がバスに乗りそびれてたらどうするつもりだったのよ」
言ったそばから自分の台詞に可愛げのなさを感じる。
「それはちょっと考えてなかったな」
でも、次のバス待ってたんじゃないかな、とあっけらかんと付け加える。
1週間分の荷物を詰めたスーツケースを軽やかに引きながら慎太郎は前を歩く。私はその背中をただ追うだけで、彼がすたすたと向かう先に従った。
「ユウちゃん、メシ食おうよ」
慎太郎の指す前方を見ると、牛丼チェーン店が目に入った。やっぱりメガ盛りだな、と嬉々と呟く。
サラサラと夜の風にたなびく慎太郎の短髪は、柔らかい芝生のよう。私がおそらく手を伸ばしても届かない高さにあるけれど、沸々と湧いてくる温かな気持ちから、どうにかしてすぐに触れたいと衝動的に思った。
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