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「――良かった。目を覚ましたんですね」
蒼がしばらく床に座り込み泣いていると、病室に二人の女性が入って来た。看護婦とムサシの事務員だ。看護婦は安心したようにやんわりと微笑んだ。すぐに医師を呼び蒼の診察が行う。
それが終わり快方へ向かっていることが確認されると、ムサシの事務員が現状について簡単に説明する。
教団は飛鳥との激戦の末、壊滅。教祖である郷田敦彦は、飛鳥G長の成田清悟により倒され、新型鬼穿の三機も使い手である傭兵と共に葬られた。しかし、ムサシ側の被害も甚大だった。清悟を含め四名の飛鳥メンバー、長野勢十二名、群馬勢十五名、福島勢十名、新潟勢三十名の戦闘員たちが命を落とした。加えて、夜になると獣鬼たちが一斉に活発化し、東日本の拠点が複数陥落する事態にまで発展。
今回の戦いで多数の拠点と戦士を失った人々は、活動領域を狭めることを決意した。守るべき拠点を減らし、拠点間で物資や戦力の融通を図るためだ。
「――以上が現在のムサシの状況です。明日、事務所へ出社してください。技術課長からお話があります」
「分かりました」
蒼は神妙な表情で頷く。内心、人使いが荒いとは感じたが、今はそれどころではないのだ。蒼も自分の体が普通よりも頑丈にできていることはよく分かっている。早く復帰して戦わなければならない。
(この街を……千里さんを守る)
事務員が帰った後、蒼は千里の穏やかな寝顔を見て決意を固めるのだった。
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